萩の香る宮城野

青萍集-「櫻草」誌掲載の会員の自選句


村上谿聲主宰の五日会俳誌「櫻草」に掲載された同人会員の自選句を紹介します

※ 2015年分を以て掲載を終了します。

※ 誤字、表記違い等に気づかれましたら、ご連絡ください。


冬もみじ

「櫻草」第158號掲載

2015年11・12月號
虹の尾の消えし端山の夕明り岩渕 如雨
堀跡の水草紅葉夕明り
夕明り丘ゆるやかに蕎麦の花
老年になりても嬉し雪遊び奥山 游悦
黄落のドイツの古城荒るゝまま
吹かれつつ海を見ている秋桜
河豚鍋をたらふく食ふた小倉思ふ武蔵 弁慶
小鳥来るみやげはいつも鳩サブレー
スーパーの沢庵漬や加減よし
<五日会近詠>
上毛の雷神おとなし実る秋合田三鬼堂
道端に育ち鶏頭の孤独かな
谿聲句繰り返し読む長き夜
晩秋や高崎旨きお切り込み
手相見の携帯電話秋寒し

すすき


「櫻草」第157號掲載

2015年9・10月號
空欄の多き手帳や降り月岩渕 如雨
憂きことの新酒に混り酔ひはやし
塾の子の気になる窓の秋灯
天の川無数の命浮かべをり奥山 游悦
探し当て荷風の墓に女郎花
虫飼ひて人の身勝手思ひ知る
秋空や雲なき山河見つめたり武蔵 弁慶
ひぐらしの哀調帯びて鳴きにけり
水澄みて我が心まで清めたり
<五日会近詠>
一門の剣士揃うて舟遊び合田三鬼堂
業火耐え七十年や夏木立
湖に焼いた喉を聞かせる盆櫓
谿聲師の論文読みゐる秋燈下
老いてなほ親子の微笑み実る秋

金魚玉


「櫻草」第156號掲載

2015年7・8月號
ふるさとを望む啄木像白雨岩渕 如雨
夏祭妻もみちのく育ちなる
夏草を乗せて寺門の屋根高き
打水の音も大地に吸ひ取られ奥山 游悦
湯上りの汗ひくまでの散歩かな
鰻食ぶ八十路と見えぬ恩師かな
爆買ひの民が群がる夏の蝶武蔵 弁慶
本堂の廊下びしびし跣かな
安全を神に祈りて山開
<五日会近詠>
女房の笑顔も見ている夏芝居合田三鬼堂
半球に生命納めん天道虫
足の痛みすこしやはらぐ夏に入る
青田続く車窓の外はめぐみ雨
  鬼城句英訳者を悼む
君ゆくや降り出しさうな夏至の空



あやめ


「櫻草」第155號掲載

2015年5・6月號
十薬や川面にあふれ光りたり武蔵 弁慶
半夏生竹馬の友と歓談す
吉田邸人の溢れて夏めく日
子ら去りぬ小公園の夕薄暑岩渕 如雨
風湿る一人の夜の冷奴
級友の変らぬ仕種宿浴衣
いつの間に影の深さよ夏木立奥山 游悦
合唱の一音下がる桜桃忌
人生の節目ふし目に雲の峰
<五日会近詠>
桜咲く標準木も年老いて合田三鬼堂
玉砕の兄悼みをり春の行く
鬼城の句座右に積みし五月可南
鬼城の書くりかへし観る五六月
大通りリラの花咲く同期会

さくら

「櫻草」第154號掲載

2015年3・4月號
雛祭病める友にもじつくりと武蔵 弁慶
梅を見に熱海の坂を登りけり
海鳴りに早やとせかされ梅の花
犬を曳く人を犬引く花の道 岩渕 如雨
花明り水面に溶けて川明り
音遠く尾を打つ鯉や花明り
流氷のぎしぎしと泣くオホーツク奥山 游悦
ビル街を赤く染めたる春夕焼
知りつつも毎度のコース花疲
<五日会近詠>
春来るや美しき国はじまりぬ合田三鬼堂
春風邪におとなしくをり三日ほど
春雪に足を取られる坂の街
花便り抑へに抑へ旅心
賑はひは隣の寺の潅仏会

わかたけ

「櫻草」第153號掲載

2015年1・2月號
老紳士ひとりコーヒー小春かな武蔵 弁慶
篝火や神楽激しく燃え上がる
白菜は空しきものか美味があり
無為の日に慣るるは恐し十二月 岩渕 如雨
独り言妻もまた増え初旦
梅の枝の生き返る雨初天神
しんしんと雪降りやまぬ漁師町奥山 游悦
どよもすや松明走るお水取り
初釜の香炉の羊つつましく

もみじ

「櫻草」第152號掲載

2014年11・12月號
好天に布団干してる保育園 武蔵 弁慶
ふるさとで心身癒す冬露天
凩や麗し並ぶ六地蔵
秋扇開き畳みて言はぬまま 岩渕 如雨
はやばやと無月と決めて酒仕度
旅十日日々に色濃く草紅葉
新海苔と太く書きたるお品書奥山 游悦
マフラーに顎を埋めて黙考す
炉語りや自慢の魚拓拡げ見せ

すすき


「櫻草」第151號掲載

2014年9・10月號
物忘れの多き日々や秋日和武蔵 弁慶
老鶯や山また山と独り占め
駄駄っこがただ駄駄こねる夜店かな
驟雨止むや皆黄のコート下校の子 岩渕 如雨
暖簾吹く風ゆるき夜の冷し酒
友の死や拡がり崩るいわし雲
クルーズ船片手伸ばせば天の川奥山 游悦
ふいと来てついと飛び去る蜻蛉かな
白萩や司法試験を目指した日

あさがお



「櫻草」第150號掲載

2014年7・8月號
蟻われを噛みて命を落としけり 岩渕 如雨
夏風の霊たまに等しく回向院
他の草を制し墓守る夏薊
北国の夜はもの悲し遠花火奥山 游悦
地獄絵も語り継ぐべし長崎忌
新涼やきりりと弓を引き絞り
地下鉄や淑女の白き夏帽子武蔵 弁慶
泥だらけ母と田植ゑし少年期
炎天や赤いかぶりの六地蔵

あやめ


「櫻草」第149號掲載

2014年5・6月號
九天の色を映してしゃぼん玉 岩渕 如雨
花過ぎていつもの宿に戻りけり
ちびつ子の届かぬやうに藤垂れり
古代よりこの貌自慢山椒魚奥山 游悦
みどり児の香が先にくる青嵐
一里行き半里戻りて山法師
春の川鳥がボールと遊びけり武蔵 弁慶
春一番一番ながら疎ましく
梅を見に熱海の坂を登りけり

さくら

「櫻草」第148號掲載

2014年3・4月號
くつきりと隣家の影や春の霜岩渕 如雨
それぞれに神宿る杉春浅し
老杉に耳当て聴かむ春の音
学び舎に藤棚ありし昭和かな奥山 游悦
五十年前の船旅陽炎へり
ゆつくりとワイパー動く春の雪
雪国の素朴な味は川魚武蔵 弁慶
冬の野に鈴なり残る赤い柿
一本のペンとマララの春を待つ

わかたけ

「櫻草」第147號掲載

2014年1・2月號
食材の偽装どこまで枯蟷螂武蔵 弁慶
木枯しや英世の母の手紙文
無骨者冬の銀座を闊歩する
寒の風起ちて日陰る母忌日岩渕 如雨
春立つや常と変らぬ南部富士
春立つや土には猫の抜けし跡
参道にせまる暮色や散落葉奥山 游悦
田舎バスゆつくり来たる小春かな
クリスマスローズの奥に君の笑み

千両2


「櫻草」第146號掲載

2013年11・12月號
懸命に職責励む案山子かな武蔵 弁慶
ボイジャーの脱出成功鱗雲
露草や敬愛の人今は亡き
友居りし下宿の窓のうろこ雲岩渕 如雨
二冊目はもみぢ葉で終ふ朱印帳
川筋の細り魚見ぬ暮の秋
干鮭を食ひちぎる歯ぞ生きるため奥山 游悦
身に入むや恩師の声の変はらざる
一隅に動くものあり寒雀

すすき

「櫻草」第145號掲載

2013年9・10月號
書に倦みて籐椅子に身を委ねたり武蔵 弁慶
山清水五臓六腑に染み渡る
老鶯や最後の力出し続け
骨撮す日の蟻のろし杖の先岩渕 如雨
傷痕をほめられ汗の松葉杖
百日紅癒えなばどこに赴かむ
人の世は短きがよし露の玉奥山 游悦
百本に百人の技菊花展
湯上りの伊香保の宿に秋の風

金魚玉

「櫻草」第144號掲載

2013年7・8月號
みちのくもやつと水張り田植前武蔵 弁慶
若葉風心の扉開けさす
ででむしの歩幅に合はせ歩きたし
我病むと小さく添へて夏見舞岩渕 如雨
越前の結夏の寺の木霊かな
放射線照射始めし原爆忌
古民家の引き立て役の渋団扇奥山 游悦
古代よりこの貌が武器山椒魚
知る顔も呑みこまれゆく踊の輪

あやめ


「櫻草」第143號掲載

2013年5・6月號
PM2・5汚染を追ふや春の塵武蔵 弁慶
畦青む會津盆地は靄の中
白梅の香り引き立つ顕徳碑
よみがへる命の松や浜の春岩渕 如雨
蕊踏むや佐保姫通り抜けし道
何か始めよと催促春の雷
球児らの声は途切れず青嵐奥山 游悦
夏来るシニアコーラス意気高し
新緑の眩しすぎるや老いの身に

さくら

「櫻草」第142號掲載

2013年3・4月號
寒梅に恋のときめき感じをり武蔵 弁慶
雪降つて墨絵の世界なりにけり
鳥食はぬ柿鈴なりに雪被る
啓蟄や白壁眩し地酒蔵岩渕 如雨
春の夜の一献に笑み幼な顔
踏み跡を振返りつつ青き踏む
春一番身体斜めに皆歩き奥山 游悦
老妻の声は少女や磯遊び
手術後の視界を横ぎる初つばめ

わかたけ

「櫻草」第141號掲載

2013年1・2月號
雪吊の難儀とうとう友メール武蔵 弁慶
人まばら波止場もやつと冬に入る
老いてなほ友と激論寒波来る
初春や朱盃に供ふ越後酒岩渕 如雨
身の内に確かな傷み寒に入る
麦の畝乾く匂ひや冬ぬくし
冬の海暮れて釣竿しまひけり 奥山 游悦
一隅に身を寄せ合ひて寒雀
何ごともなくて終りぬ三ケ日

もみじ

「櫻草」第140號掲載

2012年11・12月號
馬下し無人の駅や花芒武蔵 弁慶
広瀬川変はらぬ流れこぼれ萩
身に入むや婆が爺の手を引きつつ
秋の日の腑抜けのやうに昏れにけり岩渕 如雨
露葎裾しつぽりと子の帰る
京路地に傾き迫る紅葉山
外出の防備万端冬来る奥山 游悦
鬼ごつこやめて風花追ひかける
湯豆腐を囲む仲間の顔近し

すすき


「櫻草」第139號掲載

2012年9・10月號
あぶら蝉さうざうしくもなつかしき岩渕 如雨
退院日まづは安堵の桃啜る
秋蜂ははたして悲し病み居れば
ベランダの一隅からも虫の声奥山 游悦
職退きて古典にふける秋思かな
秋めくや朝の体操長袖に
祖父祖母が孫と遊ぶや蓮の池武蔵 弁慶
下駄履きの隠居扇子をおもむろに
耐え切れぬいじめの横行夏の風邪

金魚玉


「櫻草」第138號掲載

2012年7・8月號
鳴き誇る夏鶯や早目覚岩渕 如雨
酢の強き心太おくゴルフ茶屋
ひかへめに浄土の色を大賀蓮
百日紅愛せし友の今は亡き奥山 游悦
出航を待つ桟橋に秋の虹
魚市場紺一色の秋刀魚かな
片蔭や明治の名残り丸の内武蔵 弁慶
加波山の奉灯傾ぐ夏木立
ぼんぼりのやうに灯るやじやがの花

あやめ


「櫻草」第137號掲載

2012年5・6月號
空を見て恥ずかしさうに山笑ふ武蔵 弁慶
被災地の在りし日偲ぶ花祭
鉞の金時山にさくらかな
「終焉の地」碑なき啄木百年忌岩渕 如雨
大三角西に残れる朧かな
二十日過ぎ腫れ退く遅日酒少し
恐竜に夢中の子らよ柏餅奥山 游悦
墨東の塔のお目見え風薫る
麦秋や高齢過疎の無人駅

さくら

「櫻草」第136號掲載

2012年3・4月號
日向ぼこ一茶の句集懐に武蔵 弁慶
裸木や三角形のシルエット
返り花我が青春の戻らざる
己こそ己の寄る辺涅槃かな岩渕 如雨
流亡の仮設にしげき春の雪
みちのくの破船の海辺春遅し
津波来し沖の船影陽炎へり奥山 游悦
折り紙に夢中の老母風光る
釣糸のかすかに引きて水温む

わかたけ

「櫻草」第135號</h1>
2012年1・2月號
雪吊や瓦の赤き鶴ヶ城武蔵 弁慶
貸し借りもなきが幸せ年の暮
松蔭が越えしとうげや雪霏霏と
樹々はいまひとりになりぬ落葉径岩渕 如雨
終ひまで皆既月食湯ざめかな
温め酒微酔たちまち柳都かな
下萌や新居の土地の測量図奥山 游悦
外回り終へて囲むはおでん鍋
ビルの群れ墓のごと見ゆ雪景色

もみじ

「櫻草」第134號掲載

2011年11・12月號
沢庵の遺徳偲んで大根引き武蔵 弁慶
和蝋燭癒しの灯や秋の夜
秋祭走馬灯のごと甦る
較べみてひとり頷く古酒新酒岩渕 如雨
我生れし震災の地の新酒かな
なみなみの盃置きしまま今年酒

すすき


「櫻草」第133號掲載

2011年9・10月號
新盆を迎へず御霊漂へる武蔵 弁慶
スサノオの無念を晴らす夏祓い
湯の川の晶子の歌碑やあめんぼう
小夜嵐預けてありぬ傘と猪口岩渕 如雨
虫の音の満ちくる宵や酒一壷
この人も病の話温め酒

金魚玉


「櫻草」第132號掲載

2011年7・8月號
被災地に鳴き砂生きる夏の海武蔵 弁慶
被災地の街を忘れぬ夏燕
炎天下子規が遊びし草球場
ひそと鳴る南部風鈴新仏岩渕 如雨
見覚えのあるジャワサラサ更衣
遅れ咲く矢車の花青柳町





あやめ


「櫻草」第131號掲載

2011年5・6月號
行く人の軽きよそほひ朝桜岩渕 如雨
日陰ればひときわは明き花筏
咲き満ちてなほ静かなり夕桜
被災地の健やか願ふ鯉のぼり武蔵 弁慶
花咲いて元気もらへる震災地
仮設所に「故郷の唄」月朧





さくら

「櫻草」第130號掲載

2011年3・4月號
畦を塗る休み休みの爺ひとり岩渕 如雨
貝殻の砂を洗ひて春の雨
旅行書を並べ替へけり西行忌
人生の下書きはなし筆始武蔵 弁慶
どか雪を掻き分け家を探しけり
枝垂れ梅赤い頭巾の六地蔵





わかたけ

「櫻草」第129號掲載

2011年1・2月號
あかつきや希望を灯す冬の空武蔵 弁慶
長閑さや上野の山に南州立つ
友逝きて心痛の日々虎落笛
ひつそりと時雨の下の足湯かな岩渕 如雨
空風にいよよさえざえ軍星いくさぼし
幼顔如何になりしや賀状書く





もみじ


「櫻草」第128號掲載

2010年11・12月號
大学に道祖神あり彼岸花武蔵 弁慶
じやがいもを頬張る子らの笑顔かな
初老の紳士呼びかけ赤い羽根
郷に来て待てば小雨の後の月岩渕 如雨
駅頭に花売るともし後の月
猫は尾を立てて震はす後の月





すすき


「櫻草」第127號掲載

2010年9・10月號
雲の峰ダム湖見下ろす過疎の里武蔵 弁慶
かなかなの朝夕鳴きてすぐ熄みぬ
鬼灯や親子がラジオ聞いたころ
焼ける道こそともせずに枇杷枯葉岩渕 如雨
托鉢の裾を返して秋立てり
駅で買ふだるま弁当鬼城の忌





金魚玉


「櫻草」第126號掲載

2010年7・8月號
青蘆に若き時代を回想す武蔵 弁慶
荒梅雨や普天間基地のブーメラン
一昔人手をかけて青田かな
蟻の道何処に続く墓苑かな岩渕 如雨
立葵背筋伸びたる父なりき
北空に父母の御霊や雲の峰





あやめ


「櫻草」第125號掲載

2010年5・6月號
赤い靴うつむく少女春うらら武蔵 弁慶
狭き川流れにまかせ根白草
櫻舞ふ空から母の諭す声
分譲の旗立つ道や花水木岩渕 如雨
ラジオの音夢に入込む朝寝かな
転入の子もふたりゐて花まつり





さくら

「櫻草」第124號掲載

2010年3・4月號
曽我の梅三万五千の白さなり武蔵 弁慶
流鏑馬や古式豊かに曽我の梅
雲翳の大気を吸つて梅白き
物落つる音のみありて冴え返る岩渕 如雨
啓蟄の日の土塊を輝かす
やや大き盃選りて余寒かな





わかたけ

「櫻草」第123號掲載

2010年1・2月號
  京 都 小 野 ・ 随 心 院
小野里に老いし小町や散紅葉岩渕 如雨
手袋を着けたるままの別れかな
明日帰る子に残しおく寒卵
残り柿むくどり一斉食べつくす武蔵 弁慶
幼年の記憶鮮やか冬浅し
挫けない心育てる吹雪かな





もみじ

「櫻草」第122號掲載

2009年11・12月號
卒壽にて初めて近き山紅葉岩渕 如雨
静もれる老人施設穂垂る稲
身に入むや更地となりし父母の家
乗鞍の山肌飾る紅葉かな武蔵 弁慶
山紅葉各々語るバスの中
乗鞍の崖つ縁に立ち秋を知る


すすき


「櫻草」第121號掲載

2009年9・10月號
無罪得し友にまづ書く夏見舞岩渕 如雨
夏痩せてことば優しくなりにけり
北空に父母の御霊や雲の峰
夏野菜娘に送り礼電話武蔵 弁慶
野天風呂波濤の響き蝉時雨
華やかな料亭廃墟夏の草





金魚玉


「櫻草」第120號掲載

2009年7・8月號
 
農民の蜂起し原っぱ青嵐武蔵 弁慶
あじさいや集団疎開寺の井戸
小学校喚声少し夏に入る
丸窓に子の頬杖や杜若岩渕 如雨
旧友の歩も緩みをり河鹿啼く
風の音を伝へてなほる大賀蓮
精霊のさ迷う中へ森林浴小川 修人
万緑に溶けいくごとし遠電車
青嵐朴の葉先の痛ましさ
一生を牡丹と過しおうなかな合田三鬼堂
失うて緑陰に眠る都会かな
浮雲の子規を慕いて流る夏





あやめ


「櫻草」第119號掲載

2009年5・6月號
 
 山梨・神代桜を詠める
神代の光を放つ桜かな武蔵 弁慶
枯幹の中から生きる老桜
二千年命伝へる桜かな
あれなにの声に遠足列乱る岩渕 如雨
青ぬたや主の郷を問うてみし
浅草のにぎはひに入る啄木忌
木の芽風頂き白き山遥か小川 修人
踊り出す童子のごとく辛夷咲く
李咲く微風指揮のシンフォニー
夏雲は我が心の底や戦の日合田三鬼堂
雨去れば谷中黒猫春歩む
異郷に住み異郷を愛し桜花





さくら

「櫻草」第118號掲載

2009年3・4月號
 
憂きことをすべて纏めてどんど焚く武蔵 弁慶
オバマ節拍手喝采春隣
紅梅や前触れもなく咲き満ちて
明日の花待たずに君ぞ逝きにける岩渕 如雨
読みさしの本の重さや春の風邪
誓子忌や一病息災齢積む
寒明けや雲の下りてる雑木山小川 修人
窓越しの日射しの熱さ寒明くる
寒明けや真澄の空に溶くる雲
川風や聖天近き梅の園合田三鬼堂
梅の香や人待ち顔の花の歌碑
言問の戦火の跡や梅の花





わかたけ

「櫻草」第117號掲載

2009年1・2月號
 
ふるさとの風に色あり柿簾武蔵 弁慶
山紅葉山の匂ひの里にまで
今年酒五臓六腑に沁みわたり
も我も話に尾鰭年忘 岩渕 如雨 
数へ日や夕焼を背に山座る
角巻に似た人の目の伏せられて
  冬の虫
冬の蜂日の温もりに身を委ね小川 修人
冬の蝶今を限りと陽に遊ぶ
残る虫窓辺に鳴けりひとりの夜
凍天や恋は気高き二つ星合田三鬼堂
凍る手に熱きココア子規好み
梅の花待つ実は手入れの竹の杖





もみじ

「櫻草」第116號掲載

2008年11・12月號
 
秋晴れて佃の路地や鬼遊び合田三鬼堂
角乗へ木遣りは響く木場は秋
あきおしむへちまはたなにとうばかり
熊野道佳人の姿白芙蓉武蔵 弁慶
熊野道定家歌碑あり萩揺るる
熊野山古人の浄土野菊の香
待宵や庭園灯のつつましく岩渕 如雨
我が句さへよしと思はる月今宵
語る夜の温め酒や時もどる
黄落や海老茶暖簾の和菓子店小川 修人
黄落を独り占めする山の道
不況など何処吹く風と黄落す





すすき


「櫻草」第115號掲載

2008年9・10月號
 
争ひし故忘れゐて雲の峰岩渕 如雨
ありたけの雲を重ねて夏盛る
古稀迎ふ同級会や酔芙蓉
自由なれ角川春樹雲の峰小川 修人
風来たり北のトマトを丸齧り
新涼や鯨とならんちぎれ雲
画学生のひたひに汗みる上野かな合田三鬼堂
核絶の願ひむなしく葉月尽く
一夜とてこの世は仮の蝉しぐれ
夏痩せの妻にいいよう操られ武蔵 弁慶
縞南瓜大葉の下に隠れをり
かなかなや天籟の響奏でたり





あさがお



「櫻草」第114號掲載

2008年7・8月號
 
  京 都
保津川の飛沫に遠き桐の花岩渕 如雨
化野の緑百色石仏
千年紀源氏の庭の早桔梗
赤シャツを迷はず選ぶ更衣小川 修人
全身に快き風更衣
細腕に苦笑ひして更衣
大和路の佛帰るや上野夏合田三鬼堂(俊知改め)
祭終え神馬尿する天下かな
紫陽花は王子きつねの通る道
雲の峰天地有情の境地たり武蔵 弁慶
馬鈴薯や昔の家族子沢山
打水や千代の心を思ひけり





あやめ


「櫻草」第113號掲載

2008年5・6月號
 
曲水や義之が詩作の宴をはり武蔵 弁慶
山家集繙き偲ぶ西行忌
霾や偏西風に乗りいにしえも
  千鳥が淵
ボート浮く落花の堀に恋いくつ岩渕 如雨
日本の風の色づく落花かな
頷きて落花の中を車椅子
  西行忌
もののふに花の心ぞ西行忌小川 修人
今生の花を旅せん西行忌
われもまた花の浄土へ西行忌
  三ノ輪梅林寺の碧梧桐の墓
梅咲いて六朝体の墓石かな合田 俊知
桜満ち学会誌納めの柩閉づ
夏の日の暮れて浮びし連の獅子





さくら

「櫻草」第112號掲載

2008年3・4月號
 
紅梅の二輪咲きたる狭庭かな武蔵 弁慶
初春や祖母押す車に孫眠り
外人の夫婦神妙初詣
我が生れし日に君逝くや薄紅梅岩渕 如雨
夕映えや花と競はずつるし雛
けさ初の話は開く梅一輪
  円覚寺小川 修人
啓蟄や僧には会はず円覚寺
春浅き山黄昏るる伽藍に灯
時宗の廟所は凛とつちぐもり
空を焼き地を焼く三月十日跡合田 俊知
鶯のいろはにほへと根岸かな
梅の香を黄泉に届けし本門寺





わかたけ

「櫻草」第111號掲載

2008年1・2月號
 
  ヒマラヤ紀行武蔵 弁慶
秋冷を浴びてヒマラヤ神々し
ネパールの山谷に白く十三夜
エベレスト秋空に見て躍動す
  盛岡にて岩渕 如雨
旧き友雪冠る山ありがたし
雪の碑や十五の春に去りし街
気丈夫な添書年賀欠礼状
  信州別所温泉小川 修人 
茅葺の御堂は大き小春かな
コスモスの風に吹かれて足湯かな
散落葉三重の塔仰ぎ見よ
傀儡に命ふきこむ里祭合田 俊知
鶏頭のなほ立つくす冬の庭
足痛のやはらぐ路や石蕗の花





もみじ

「櫻草」第110號掲載

2007年11・12月號
フィリッピンの海から旅する台風裡武蔵 弁慶
一つ毎稲穂を集め山となす
新米を仙台味噌と味わへり
クラス会の案内届くや菊膾岩渕 如雨
後の月石割桜つつがなし
啄木の城跡暮れぬ蔦紅葉
涼新た竹の葉揺れし子規の墓小川 修人 
糸瓜揺れる子規庵守るボランティア
道灌山面影薄れ昼の虫
獺祭忌道ゆずりあふ狭き庭合田 俊知
秋晴れや石段高き街乳山
白金の森秋色深む通り雨





すすき


「櫻草」第109號掲載

2007年9・10月號
 
露天風呂入りて一人の暑さかな武蔵 弁慶
マンションを取り除いてよ遠花火
敗戦の球児の涙秋暑し
妻と映るやけどしそうな墓洗ふ岩渕 如雨
あたらしき卒塔婆に秋の蝶
かなぶんの転がりてあり手水鉢
翳す手に散りたる目高また群るる小川 修人 
目高の子無数ミクロの天眼鏡
水草に隠るる目高追ふ目高
足萎えて太陽睨む大暑かな合田 俊知
五次元の話題に烏揚羽蝶
虚と実の猫遊ぶ夏山房址





あさがお



「櫻草」第108號掲載

2007年7・8月號
子規庵や糸瓜虚空へのぼりゆく合田 俊知
若冲の石仏訪ひぬ夏盛り
肩越しに「受胎告知」見る夏衣
明易や裾に雲置く南部富士岩渕 如雨
独り居に何問ひかくる扇風機
日盛や汝の短き影を踏む
病癒え故郷旅す花山葵小川 修人 
風薫る駅に迎への道祖神
白樺の若葉の先は鹿島槍





あやめ


「櫻草」第107號掲載

2007年5・6月號
新樹光坐禅案内墨新た岩渕 如雨
休酒はや十日になりぬ菜種梅雨
春遅し目路の果なる青信号
城跡に老樹恬然花吹雪小川 修人 
老人のトランペットに落花舞ふ
静まれる禅林宝窟落花かな
太宗寺花光背に六地蔵合田 俊知
花冷の御苑見下ろす茶房かな
四国路の旅の役者の花便り





さくら

「櫻草」第106號掲載

2007年3・4月號
古草や採り残したる畝二列岩渕 如雨
畑打つや眠り足らざる虫まろむ 
ふるさとの話とくとく啄木忌
入院を前に朝風呂冬至かな小川 修人 
麻酔醒め孫の顔見るクリスマス 
病室の起床は六時初茜
梅が香をほしいがままに諏訪の茶屋合田 俊知
太鼓橋手すりによりて梅見かな
梅飾る浮世の龍図パリ帰り





わかたけ

「櫻草」第105號掲載

2007年1・2月號
葺替への寺の瓦に散紅葉岩渕 如雨
大き樹の枝を頼まず落葉かな 
深川に護摩木納むやしぐれ鍋 
歳晩の人また人の中にあり小川 修人 
行く年に取り残さるる心地かな 
而して事なく過ぐる年の暮
地吹雪て蒼白の月走りゆく合田 俊知
北斎の画業如みし冬櫻
元禄の科白悲しき冬芝居





もみじ

「櫻草」第104號掲載

2006年11・12月號
同人自選句-青萍集
木の実落つ一灯点る露天風呂岩渕 如雨
にぎはひは他所に任せてぶな黄葉
学校の予定地のまま乱れ草 
箱根路をスイッチバック赤蜻蛉小川 修人
ピカソ展見る仲秋の箱根かな 
露の濃き大涌谷の湯の香
秋の日に色染まりゆく堀の路合田 俊知
街路樹の葉落ち現る釣り餌屋
元禄の科白悲しき冬芝居





すすき


「櫻草」第103號掲載

2006年9・10月號
同人自選句-青萍集
枝豆や帰らざる日の佐渡おけさ岩渕 如雨
噴水を遠囲みする水草かな
ビル風や団扇配りは朱を着て
一望の夜景の上を大花火小川 修人
花火果て名残の煙漂へり 
娘らも太鼓を敲く山車の上 
プラタナス確と掴めり夏の草合田 俊知
川風や花火にくりだす屋形船
帰国した娘の膳や秋刀魚焼く





あさがお



「櫻草」第102號掲載

2006年7・8月號
同人自選句-青萍集
母の声聞きたし夏の恐山合田 俊知
砂浜に心も投げ出す素足かな 
回向院あじさい色濃き日暮かな 





あやめ


「櫻草」第101號掲載

2006年5・6月號
同人自選句-青萍集
一粒の水の叫びや春の滝合田 俊知
春来るや業火に耐えし壷一つ
江戸城の三の丸址花吹雪



さくら

「櫻草」第100號

2006年3・4月號
同人自選句-青萍集
初春や古社寺静かや隠れ里合田 俊知
人の世を背負ひてのぼる初詣
半蔵門小さく見せし牡丹雪



わかたけ


「櫻草」第99号掲載

2006年1・2月號
同人自選句-青萍集
み仏のほおづえついて冬日さす合田 俊知
古コート親の形見の暖かさ
白杖をつきて辿りし七の福




誤字、仮名遣いの誤り等に気づかれましたらお知らせください。

△TOP



例会記録Ⅴへ ∥ 「櫻草」掲載句へ ∥ 句 会 風 景へ∥ 俳誌「櫻草」紹介

HOMEに戻る







如雨の「啄木雑想」