萩の香る宮城野

『櫻草』掲載の会員の俳句-弐2010~15年

村上谿聲主宰の五日会俳誌『櫻草』に掲載された会員の句を紹介します

2010年から15年掲載分です。

※ 2015年分を以て掲載を終了しました。

同人自選句集「青萍集」所載分は別ページにあります。
このページの俳句の配列は「櫻草」掲載順です。

※ 誤字、表記違い等がありましたら、ご連絡ください。


冬もみじ

「櫻草」第158號

2015年11・12月號
当季雑詠
実家(さと)のなき年齢となりけり秋深し 岩渕 如雨( )
句趣はいさ仮名を確かむ秋灯
読まぬ本はみ出す書架や文化の日 
柿啜るほかに音なき雨夜かな
八千草に音を吸はせて夜の雨
山芋の泥にまみれし新聞紙奥山 游悦
湯冷めする生身の体おそろしき
七五三いま人生は上り坂 
歌舞伎評見較べてゐる文化の日
鯛焼は尾頭付きの贈り物
恐山の山は閉ざすと冬に入る合田三鬼堂
酔ひどれの足元あやうし雪あかり
猟師ゆく雪降りやまぬけもの道
漁船らは流氷を待ちて陸にゐる
北国の聖歌聞こえる年の暮
叢雲の朝日を過り雁渡る深谷 柏葉
流星の地球の裏へ急ぎけり 
かさこそと枯葉追ひくる石畳
城跡は碑一つ冬茜
天の荒び宥め宥めて山眠る
学童が家路を急ぐ初時雨武蔵 弁慶
冬帽をかぶり直して北国へ
白鳥来湖にスワンの遊覧船
川岸の岩につかまる木の葉かな 
山里の景となりたる大根干し

課題句:冬紅葉、障子
この世をば燃やし尽くすか冬紅葉  游 悦
石地蔵御座す峠に冬紅葉
色を重ね装ふ一樹冬紅葉 如 雨
ひと雨に色戻りくる冬紅葉
吉野山奥駈道や冬紅葉 弁 慶
空海のゆかりの寺や冬紅葉
冬紅葉色なき山を背負ひけり柏 葉
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
たまゆらの日影まばゆき白障子 如 雨
歳時記と障子二枚の別世界
後ろ手に障子を閉めて慟哭す 游 悦
猛獣の影絵の迫る障子かな
釜の音コトリともせず冬障子柏 葉
障子戸の破れに童女の眼かな
奥ゆかし恩師の書斎白障子弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






すすき


「櫻草」第157號

2015年9・10月號
当季雑詠
物問へば短き答秋暑し岩渕 如雨
無月らしきのふの月を惜しみけり 
戦なき七十年の秋高し 
是非もなし敬老の日の酒二合
風なくも乱るるがよし秋の草
新涼や車掌の右手高々と 奥山 游悦
子らの声やがて花野に吸ひ込まれ
秋晴に身のもどかしや車椅子
浮世絵の廓に遊ぶ夜長かな
忍従のあとの御褒美野分晴
海外に戻る子無事か野分来る合田三鬼堂
七十年終戦特集あまた観る
幽霊に足なく時期ある応挙の忌
名月やうさぎ影濃き光かな
パソコンのリカバリーする秋立つ日
錆鮎の炉端あかあか宴闌ける深谷 柏葉
秋扇や琵琶湖に入りし夕日影
朱に混じり朱に染まぬ白曼珠沙華
立待の雲に翳りて酔ひ少し
街路樹の葉擦れも軽き野分あと
山深き寂びれた村に秋灯す武蔵 弁慶
曼珠沙華孤高の母を思ひ出す  
ふるさとの農家は厄日恐れたり
鰯雲海の大漁を祝ふかな
秋晴やどこかに帽子忘れたり

課題句:水澄む、末枯
水澄みて空に一点千切れ雲 柏 葉
逆さ富士少し白みて水澄めり
隅田川広大にして水澄めり弁 慶
山里は湧水溢れは水澄めり
水澄むやクレソン光る柿田川游 悦
いつも来る川も今日から水澄めり如 雨
農村の小さき溜め池水の澄む三鬼堂
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
末枯の庭をいたはる夜の雨 如 雨
風はこぶ遠き晩鐘末枯れぬ
夕日射す釧路湿原末枯れて 游 悦
末枯の崖に残りし津波跡
末枯れて水の流れも静かなり三鬼堂
末枯れや路地に静かさ戻りけり
末枯の人生楽し旅に出づ柏 葉
末枯や放置の車河川敷弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






風鈴

「櫻草」第156號

2015年7・8月號
当季雑詠
沖縄の焼き尽くされし夏至がまた岩渕如雨
いくたびか人見失ふ鬼灯市
青嵐老いて口つく応援歌
流れゆくものみな大き梅雨出水
なに在りし街か日盛る津浪跡 
向日葵に心の奥を照らされて 奥山游悦
はじらひの少女はじめて浴衣着る
メールには書ききれぬこと夏終わる
忘却を憎むてふ人原爆忌 
梨を剥く妻の手つきに見とれをり
四万の湯は山分け入りて余花曇深谷 柏葉
葉桜や宴のあとの濃化粧
城あとの堀を埋むる濃紫陽花
梅雨滂沱国の形の変はりゆく  
念力に頼つて凌ぐ暑さかな 武蔵 弁慶
暑からう赤い前掛六地蔵
老鶯やこれが最後と鳴きつづけ
☆菜や汚れを知らぬ白さなり
生きる意味諭してくれる雲の峰
  ☆は、草冠に左下が口に耳、その右に戈(ほこ) の字。「☆菜」でどくだみ?。

 
課題句:天道虫、芙蓉
寸分の隙無き甲天道虫 游 悦
球割れて宙に翔び立つ天道虫
七つ星良き名を得たり天道虫 如 雨
手渡せば背を割るそぶり天道虫
天道虫飛び立つ姿わが励み 弁 慶
天道虫葉の先端で右左
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
輝ける生命はひと日酔芙蓉 如 雨
咲き初む芙蓉に朝の風にくし
芙蓉咲く我関せずと地蔵尊弁 慶
白という初めの色や花芙蓉
人住まぬ隣の垣根白芙蓉游 悦
山門の奥に四阿芙蓉咲く

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。









あやめ

「櫻草」第155號

2015年5・6月號
当季雑詠
郷愁の月に吠えたり朔太郎忌武蔵 弁慶
代掻きを静かに見てる磐梯山
一瞬に心躍らす柿若葉
プラタナス母校懐かし立夏かな
ふるさとの名産品や桐の花
人待つや駅の端なる遅桜 岩渕 如雨
木洩れ日の遊ぶ朽ち椅子松落葉
聞き上手の上司の訃報忘れ霜
朝風呂の木桶の響若葉風
夏曉の竿に小さきユニフォーム
砂浜に嬰児立たせて夏来たる 奥山 游悦
五合目の脚の疲れや滴れり
この淵は我が縄張りと山椒魚
地の水を吸ひて浄める水芭蕉 
行きずりの女性と似たる濃紫陽花
都会にも雲は流れる早苗月 合田三鬼堂
更衣ふ暖簾も替へる若女将
釣り堀のすみに売らるる天使魚
蕎麦食うて冷酒の季節と覚りけり
深山の孤高に生きて山楝蛇(やまかがし)

課題句:茄子苗、夏帽子
下町の茄子苗並ぶ花屋かな 三鬼堂
店頭の上段に並ぶ茄子の苗
実ひとつ付く茄子苗も買ひにけり 如 雨
茄子苗に余地は四五本狭庭かな
大空の英気を吸つた茄子の苗 弁 慶
農家より分けてもらひし茄子の苗
茄子苗を親しき友に分かちけり游 悦
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
夏帽子とりて無住寺由緒書 如 雨
あの人と知れるいつもの夏帽子
嬉々として波際を行く夏帽子游 悦
見た目より気分が大事夏帽子
旅立ちや頭上に軽き夏帽子三鬼堂
一列に散歩の園児夏帽子
追憶の美少女かぶる夏帽子弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






さくら

「櫻草」第154號

2015年3・4月號
当季雑詠
春めいて香りを捲る新刊書武蔵 弁慶
素性よき木木が真つ直ぐ山笑ふ
水温むうしろに人のゐるやうな
亀鳴くや子は妖怪の夢を見る 
凍てゆるむ黄の花庭に三種ほど岩渕 如雨
薄氷の残り試験の日の暮るる
水温む流るる草と歩みけり 
暦では春と伝へて雪予報 
竹の葉の音の乾きて春寒し
遺棄されし村をさまよふ牛朧 奥山 游悦
小さき子も翼ひろげて卒業す 
一椀に野の薄みどり蕗の薹
我知らぬ妻の少女期桜餅
やまくずれ続く町にも初燕
啓蟄や古傷静かに思ふとき合田三鬼堂
登りきて上野の山の潅仏会
峡谷に豪雪溶けて響くなり
ビル中に古雛飾る日本橋
散策の袖摺坂に春の雨

課題句:芹、うららか
朝粥の芹の香満つる仏間かな 游 悦
万葉の世界に誘ふ芹の水
幼き日飢ゑに堪へ兼ね芹を摘む 弁 慶
芹の香やこれぞ天から授かりぬ
畦弛む危ふき腰で芹を摘む如 雨
芹の香やふるさと訛聞くやうな
芹摘んで母は戻りし厨かな 三鬼堂
芹籠や大目に摘んで棚の上
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
うららかや豊かな流れ隅田川 弁 慶
うららかや唇紅き弁財天
うららかや昼どきに発つ京の宿如 雨
うららかや間延びせし歌下校の子
うららかや日当る畝に鋤寝かせ游 悦
麗かや寝そべりて読む昆虫記
麗らかな海をもみせるオホーツク 三鬼堂
うららかや友の名づけし俳句の間

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






わかたけ

「櫻草」第153號

2015年1・2月號
当季雑詠
門松や会津と越後仲間内武蔵 弁慶
山奥の蕎麦を啜りて年賀かな
初鳩のくぐもつて鳴く稲荷かな
冬ざれや友は静かに消え去れり
初春に人形焼買ふ異邦人
みちのくの宿の湯冷めや旅のメモ岩渕 如雨
歳末や落つる籤玉乾く音
年立つや小吉ほどの願ひあり
初競りの喧騒の中魚眠る
冬ざれや菖蒲田なりし水たまり
三陸の浜も賑わふ小正月奥山 游悦
不愛想な人の集まる焚火かな
風花や女系家族の旅芸人
列島のひれ伏す上に冬将軍 
髷結ひて広きおでこや松の内

課題句:数の子、下萌
数の子を噛めば小樽の波の音 游 悦
音高く数の子を噛み母息災
奥の歯を入れて数の子音軽し 如 雨
数の子の黄金を摘み朱盃酌む
数の子や真珠のやうな味がする 弁 慶
数の子を噛めば噛むほど甘さ増す
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
下萌や人盗りし浜荒るるまま 如 雨
下萌や老いに励みの土香る
下萌や野外授業の河川敷 游 悦
人住まぬ隣の敷地下萌ゆる
大阿蘇の午喜びて下萌ゆる 弁 慶
畦道に生気みなぎり下萌ゆる

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






冬もみじ

「櫻草」第152號

2014年11・12月號
当季雑詠
落城の堀をゆつたり冬の鳥武蔵弁慶
旧火山噴火を止めぬ神無月
大仏も孤独なひとり冬の空
諍ひも生活の糧冬うらら
晩菊や老いを自慢の待合室 岩渕如雨
声かけてしばし道連れ野路の秋
窓にかかる紅葉でよろし雨湯宿
空に浮き今年も柿の熟るるまま
初時雨人驚かず市の街
秋深し次回は決めぬクラス会 奥山游悦
折り鶴の並ぶ縁側小春かな
ゴム長の跡の残りし冬田かな
見ぬふりをしても気になる社会鍋

課題句:笹鳴、酉の市
人群れる裸電球酉の市 游 悦
昏れてより人の湧き出す酉の市
客売手みなほろ酔うて酉の市 如 雨
江戸つ子となりたる気もす酉の市
小熊手書斎の窓を飾りけり弁 慶
下町のうすくれなゐや酉の市
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
笹鳴を隣家に送り夕ぐるる 如 雨
笹鳴に話半ばで終りけり
笹鳴やギターを弾く手をそつと措き游 悦
笹鳴に心の隙を突かれけり
笹鳴に起き笹鳴に眠りけり弁 慶
笹鳴に地球の平和祈りけり

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






すすき


「櫻草」第151號

2014年9・10月號
当季雑詠
栗の飯共に白髪の夫婦かな武蔵 弁慶
風評に耐えて里より梨団栗や届く
団栗や空から落ちる贈り物
みちのくにあれば合点の秋立ちぬ岩渕 如雨
声かけてくる人知らず初紅葉  
今日聞けば秋の声する貝の殻
滞りなく終りし葬儀うろこ雲
秋声や父母の気配のあるやうで
浮世絵の廓に遊ぶ夜長かな奥山 游悦
幾度も部屋に来る母盆休み
祖父も踏み父も踏みたる刈田かな  
みちのくの風を孕みて梨をもぐ
身に入むや壁に残りし津波跡  

課題句:葉鶏頭、かりん
太陽と地熱を吸ひし葉鶏頭  游 悦
本心をむき出しにする葉鶏頭
今日の日を吸ひて明日燃ゆ葉鶏頭  如 雨
まだ夏の気配と色の葉鶏頭
みどりごの成長見つめる葉鶏頭弁 慶
葉鶏頭いななき踊る驟雨かな
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
この向きがいい貌ならむくわりんの実  如 雨
傷つきて残されにほふくわりんの実
ゴミ箱のいびつのかりん匂ひ立つ游 悦
見栄えより中身が勝負かりんの実
鬼城師の心伝えるかりんかな弁 慶
武家屋敷かりんたわわに実りけり

上記句の「かりん}は漢字表記ですが、インターネットでは
カバーされていない文字ですので、平仮名にしました。


印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






風鈴

「櫻草」第150號

2014年7・8月號
当季雑詠
足音に金魚大きく目を出せり武蔵 弁慶
わだつみの幾多の墓標終戦忌
深き山人生歌ふ青葉木菟
ひたすらに生きる毛虫の武者姿
捨つべきを捨ててやうやく夏座敷  岩渕 如雨
降り立てば夕虹二重ふたへビルの間あひ
二番子は声嗄れるまで夏燕
今年また人気ひとけなきらし夏館
蝸牛ででむしになにも申さじ我に似る
炎昼や街ゆく人のゆらめきて奥山 游悦
拍子木の音心地よき夏芝居
百までも生きるつもりか百日紅  
お互ひに本音語らず心太
籐椅子に美空ひばりの古写真  

課題句:雲海、西瓜
雲海の動くと見えて動かざる  游 悦
雲海の浮世の些事を覆ひけり
雲海を突きて真中に朝の富士  如 雨
雲海の隠すうつつよ夕べには
里山は雲海に消え白く映ゆ  弁 慶
雲海に浮かぶ孤島や槍ヶ岳
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
西瓜食ふ子らの歯並のうつくしき  游 悦
切西瓜口いっぱいの母息災
いくたびか西瓜回してこの一刀  如 雨
西日さす店に戻りて西瓜買ふ
西瓜取る少年は我夢の中弁 慶
兄弟は並んで無口西瓜喰ふ

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






あやめ

「櫻草」第149號

2014年5・6月號
当季雑詠
茶届くや新しき夏来たるらし岩渕 如雨
気どらずにたつぷり生姜初鰹  
職退けば恥ぢず派手めの更衣
青山椒片手にわづか余るほど
老いてふたり気持新たに更衣  
愛用のギター静かに夕薄暑奥山 游悦
太宰忌や上水番屋今はなく
五月雨や欄干濡れし渡月橋
無人駅遠巻きにして蛙鳴く
葉桜の下をゆつくり老ふたり  
モンゴルの大草原も草萌ゆる武蔵 弁慶
凡人もさまざま思ふ桜かな
栗の花身を乗り出して朝日浴び
高層の団地見上げて田を植うる  
薄暑光一点見つめる稚児の笑み

課題句:夏場所、雨蛙
夏場所やゆつさゆつさと勝力士  如 雨
夏場所や花道戻る背の光る
夏場所の未来を担ふ序二段  弁 慶
夏場所が終れば一つ年老いぬ
法被爺触れ回りをり五月場所游 悦
大川に寄す夏場所の触れ太鼓
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
昼の日の暗みて歓呼雨蛙  如 雨
いま鳴くはお前か小さき雨蛙
雨蛙輪唱のコツ知ってをり  游 悦
御仏を恋ふやしきりと雨蛙
遊休のプールで泳ぐ雨蛙  弁 慶
草叢の可愛い玩具雨蛙

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






わかたけ

「櫻草」第148號

2014年3・4月號
当季雑詠
啓蟄や拾ひ残しの豆転ぶ岩渕 如雨
眠りゐし土のぬくみを耕せる 
卒塔婆の古りて彼岸の風に鳴る 
掃き寄せて山なす美形落椿
他愛なき諍ひ留まる朧かな
桃色の仔豚戯れ合ひ春の泥 奥山 游悦
白酒に酔ふ男とて親しまれ
一と網を紅色にして桜鯛 
夜桜や連れあるらしき友を避け
諍ひもすぐ忘れをり春炬燵
大根の干されて里は青い空武蔵 弁慶
雪原に鶏卵工場赤い屋根
頬つ被り車の雪を振り払ふ

課題句:東風、朝寝
東風鳴らす絵馬にあまたの願ひごと  如 雨
ステッキの軽きを選りて東風の道
桜東風合格の絵馬喜べり 弁 慶
強東風に田畑耕す農夫かな
強東風に縮む我が身の老いゆくか 游 悦
暖簾に東風の吹く頃新メニュー
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
充電が放電となる大朝寝 游 悦
さまざまな音過ぎてゆく朝寝かな
極楽と言ひてたまさか母朝寝 如 雨
職退きて疾やましくもなし大朝寝
庄助の愛でし出で湯で朝寝かな弁 慶
鎌倉の大仏様よ朝寝せよ

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






若竹

「櫻草」第147號

2014年1・2月號
当季雑詠
 
手を上げて凍て風の中一輪車岩渕 如雨
湯冷めして何か盗られしごとく寝る
寝ねぬ夜の嫁が君まだ舞台裏  
しくじればむしろ褒めらる初笑ひ  
歳の市人は淋しき仮面にて
雪の夜は声ひそやかに読み聞かせ奥山 游悦
懐炉入れしときより急に老け込みぬ
会ふことのなきを知りつつ賀状書く  
冬蜂の辿りつきたる三和土かな  
侘助やうつむく母に声をかけ
暮の秋峠の詩碑の遂に建つ武蔵 弁慶
木守柿鳥が群がる過疎の村
時雨るるや仮設は車動くのみ
ペットにも七五三とは面白き

課題句:獅子舞、風花
獅子頭脱ぎて一礼茶髪かな  游 悦
待ちわびし獅子舞の笛まづ聞こゆ
獅子の口寄れば燥ぐ子逃げ出す子如 雨
獅子舞の笛のみ聞え過ぎにけり  
獅子舞に子供も笛に首回す  弁 慶
ふるさとも見られぬ景や獅子頭
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
寺屋根を越え風花の永らへし如 雨
風花や高き墓苑に父母眠る  
風花やごぜの行きしはこの道か游 悦
風花や被災現地に寄らで過ぐ
風花や戊辰の役の鶴ヶ城弁 慶
風花や海の匂ひの震災地

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






南天

「櫻草」第146號

2013年11・12月號
当季雑詠
いなご採り小遣稼ぎなつかしき武蔵 弁慶
亡き母と二人土間での胡桃割り
若人の大きなリュック鰯雲
千枚田踊る娘の案山子かな
風音に草の色消す暮の秋  岩渕 如雨
痛きほどの拍手届かず神の留守
店の灯の消えて芋焼く火の赤し
海鼠腸このわたの土産夜更の独り酒
盛大な拍手まで待つ堪へ咳
短日や古書店巡る急ぎ足奥山 游悦
銀杏を拾ふ女将の手際よき
遠山の見ゆる軒端の柿すだれ
百薬に勝る漁師の根深汁下
いくたびも同じ唄聴く秋灯

課題句:マスク、北風
集団で大きなマスク登校す  弁 慶
マスクして喜怒哀楽も隠すかな
猛き人もマスクかければ大人しく  游 悦
先生も生徒もマスクもどかしや
マスクとり鉢の蕾を比べみる  如 雨
唇を噛むを隠せるマスクかな
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
遊ぶ子の声も運びし北の風  游 悦
北風に身を縮めゐる仔猫かな
北風や今なほ父の諭す声  如 雨
北風やとほき縁ある墓一基
北風や古き酒蔵窓一つ  弁 慶
北風に寺の大楠動かざる

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






すすき


「櫻草」第145號

2013年9・10月號
当季雑詠
炎天下白黒の傘オンパレード武蔵 弁慶
山里の温泉宿や藍浴衣
夏草や被災地今も真つ平
万緑や命あるもの生き返る
バスの窓今朝も大きく花芙蓉岩渕 如雨
浜町の空には小さき後の月
蜻蛉の尻打ち残す波紋かな
年ごとに朝顔小さく独り住ひとりず
良夜かな花開くごと草光る
朝露に濡れし黒髪見初めたり奥山 游悦
来し方と行く末語る良夜かな
虫飼ひて地球の歴史垣間見る
みちのくの優しさ強さ萩の花  
一言をまづは抑へて梨を剥く  

課題句:夕月夜、秋晴
そのときのあなたの笑みや夕月夜  游 悦
屋形船行き交ふ小川に夕月夜
告白の小暗き道や夕月夜  如 雨
さざ波の散らす光の夕月夜
夕月夜世の浮き沈み見つめたり  弁 慶
夕月夜なつかしき日と思ひ出す
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
秋晴と老母を乗せて愛車行く  游 悦
国後を抱く知床や秋晴るる
秋晴や同じふるさと語りをり  如 雨
塔高く白雲を突く秋日和
秋晴のどこかに帽子忘れ去る  弁 慶
秋晴や喜び溢れ富士の山

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






風鈴


「櫻草」第144號

2013年7・8月號
当季雑詠
観音の慈愛に触るる若葉風武蔵 弁慶
崖からの滴る水も海原に
働かぬ輩もゐるや蟻集団
夏めくや匂ひをめくる新刊書 ○○ 
喜びの地から新茶の届きけり
背の高き雲背伸びして梅雨明くる  岩渕 如雨
宙に会ひ命またたく螢かな
杉暗き滴りの壁立石寺
義母忌日寺屋根光る夏の月
しばらくは供へて置かむ早桃かな
日のさすや庭木の影も秋めきて奥山 游悦
目標は大きいがよし夏休
青空の重さを乗せて夏帽子  
蜘蛛の井を逃れんとする命かな
渓流の眺めも馳走夏料理

課題句:生身魂、水中花
年齢訊かれ真顔になりぬ生身魂如 雨
生身魂いただきましたと酒五勺  
みちのくに独り暮らすや生身魂  游 悦
今もなほ折り紙師範生身魂
目と耳のほかは健やか生身魂  弁 慶
抜歯して演技にかける生身魂
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
誰からも見え誰も見ぬ水中花  游 悦
水の中怖ひものなし水中花
水中花ファンタジーの世界なり  弁 慶
人生の華麗さ競ふ水中花
水中花昔の夢のごと開く  如 雨
水中花をつつみし水の美しさ

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






あやめ

「櫻草」第143號

2013年5・6月號
当季雑詠
手で掬ふお玉杓子は幻か武蔵 弁慶
観梅の翁しつかり歩きけり
雷門提灯揺らず春一番
バチカンに白煙上がり涅槃西風
夏めくや雲の姿のゆたかなる岩渕 如雨
夏燈恋とは言へぬこひ語る
人がやや避くるかと見ゆサングラス  
あやかりて少し薬缶の祭酒
筆ペンの般若心経夏書かな 
辛いことすべて忘れてこどもの日奥山 游悦
恐竜は今も大好き柏餅
祖父も見し父も眺めし植田かな  
平泳ぎ立ち泳ぎあり森林浴

課題句:薄暑、短夜
今日もまた篠笛聞こゆ夕薄暑 游 悦
豪華船見送る岸に薄暑光
土の手を洗ふしぶきや夕薄暑 如 雨
忘れしを忘るる日なり薄暑かな
人も皆宇宙のかけら薄暑光弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
短夜やはらから語り尽くるなし如 雨
明易や惑ひしままに夢の果て
短夜や明日の段取り決めかねて游 悦
短夜や余生いくばくショパン聞く
短日や塔に傾く山の月弁 慶
短日や虚ろな気分さらに増し

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






さくら

「櫻草」第142號

2013年3・4月號
当季雑詠
雪見れば何もいらないゆたかなり 武蔵 弁慶
初場所の旗がひらめく隅田川
山頭火生死の中に雪降れり
雪吊の松が鎮座す心字池
赤飯の香の門にあり合格す岩渕 如雨
生ひ立つは誰の記念樹雛の家
若人の別れは飛躍三月尽
白髪に枝垂れて触るる桜かな
春昼や小さき影に追ひ越さる  
大声で唱歌合唱卒業す  奥山 游悦
山焼くや農夫らの目の油断なく
下萌や津波跡地に子ら遊ぶ
病み上がり空を見たくて青き踏む  
三陸の海かげろひて貝ひろふ

課題句:日永、白酒
読みさしの本重ねをり日永かな  游 悦
永き日や長居気にせぬ見舞客
永き日や路地に昔の遊びなく  如 雨
鳴りつづく呼出音の日永かな
永き日を待ちに待ちたる観覧車  弁 慶
永き日の朝日がつなぐ生きること
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
白酒は古き良き日のなごりかな弁 慶
在りし日の父母を偲びで白酒酌む
今日だけは下戸も拒まぬお白酒游 悦
白酒や無口の父も旨さうに
白酒に備へ頬紅もう一度如 雨

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






若竹

「櫻草」第141號

2013年1・2月號
当季雑詠
侘助の藁に包まる八幡宮武蔵 弁慶
雁来るどんなみやげを携へて
空つ風街路の塵を払ふのみ
母作る冬至南瓜の愛思ふ
冬の旅我はみちのくまづ目指す  
捨てきれず隅に本積む年の暮岩渕 如雨
繰言は言はずと決めて今朝の春
手焙や神札おふだ所の人途切れたる
小吉に不平などなし初神籤
襷継ぐ笑むも叫ぶも息白し ○○ 
短日や古書店巡り切り上げて奥山 游悦
寒月や身を寄せ合うて影二つ
そこだけは掃き残したき柿落葉
いつまでも生きる気がして寒卵 ○○ 
正月や仮設住宅人気なく

課題句:左義長、かんじき
どんど祭久しく会はぬ友のゐて  游 悦
どんどの火顔てらてらと闇に浮き
火の柱崩れどよめくどんど祭如 雨
惜しさうに達磨投ずやどんどの火
煩悩も憂きも一緒にどんど焚く弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
かんじきやみな年寄の歩むごと如 雨
かんじきで行くは忍者か疾うに消ゆ
かんじきの跡の消えゆく森の奥游 悦
かんじきの跡並びをり親子らし
かんじきで聴く新世界シンフォニー弁 慶

※ <木偏>に<累>の漢字ですがwebでは出ませんので
ひらがな表記にしました。

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






南天

「櫻草」第140號

2012年11・12月號
当季雑詠
呆気なきひとり昼餉のとろろ汁岩渕 如雨
撫でられて光る牛像宮の秋
昏れむる頬杖の窓一葉散る
実を枝にいのちまつたう柿落葉 ○○ 
音も香も変らぬ城の落葉風
北風や黙々として太極拳  奥山 游悦
冬木立抜けて再び冬木立
冬晴を待ちて物干す団地かな
しあわせの匂ひ孕みて干布団
新走言葉少なき友と酌む
屋敷林苅田の原に凛として武蔵 弁慶
秋祭抜けきて静寂大学門
われひとり媚びぬ人生吾亦紅

課題句:神の留守、煤拂
神主の背広姿や神の留守  游 悦
いさかひは当分自粛神の留守
大岩の縄色失せて神の留守  如 雨
掃き寄せて参道狭き神の留守
荒潮の岬の宮や神の留守弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
踏台のおぼつかなきや煤拂游 悦
煤拂見守るだけの歳となり
僧侶みな尊き大仏煤拂弁 慶
見向きせぬ古き地球儀煤拂
煤拂高きにありぬ古手紙如 雨
物寄せて発見のある煤拂

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






すすき


「櫻草」第139號

2012年9・10月號
当季雑詠
雲の峰やうやう遂げし逆上り岩渕 如雨
酷使せし五臓に礼を言ふ残暑
十六夜や今日から妻も老いはじむ
独り居や声なきうちに星流る
夕されど一句も成さず西鶴忌
打ち水や土の匂ひの立ちのぼり奥山 游悦
星祭恐竜の名が書かれをり
天高し広場の合唱声高し
秋嶺を胸一杯に吸ひ込みて  
新涼や社員の顔も引きしまり
飛魚のしきりに飛ぶや伊豆の海武蔵 弁慶
噴水の飛沫の光る芝生かな
片蔭に乳母車入り子の笑顔
夏山に古稀の挑戦歩の弾む
歳三の傷いやし湯や月見草

課題句:月、秋の風
古稀過ぎし身に優しきや夜半の月 游 悦
無人駅下車して近き月の宿
夕月夜差し込む狭庭方丈記弁 慶
満月の出でてカーテン明け放す
我病むを上れる月に語りけり如 雨
出湯宿月ある部屋に寄合ひて
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
そばに人あれと思ひぬ秋の風如 雨
秋風や太字の術後注意書
クラス会間遠となりぬ秋の風游 悦
朝散歩チョッキで凌ぐ秋の風
行方なき瓦礫の山に秋の風弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






風鈴

「櫻草」第138號

2012年7・8月號
当季雑詠
武蔵野は薄墨の雲桜桃忌 岩渕 如雨
幼名で呼ばれしは夢昼寝覚 
注文を替へて生簀の鯵とゐる
結局はそれで結構冷奴
夏帽の中を拭ひて池之端
宵闇に思ふこと言ひ出せぬまま 奥山 游悦
自転車を夏野に寝かせ水辺まで
夏霧や幣舞橋ぬさまいばしにたどりつき
運動会だけは英雄いつもの子
我が家には勿体なきや棕櫚の花
サングラス日食を見る目となりし武蔵 弁慶
白鷺の静かに歩む我もまた
黒南風をしかと受け止めスカイツリー

課題句:金魚、踊り
マンションの水の宇宙や金魚鉢游 悦
ワルツ聴き身をひるがへす金魚かな
はしつこにゐて難逃る金魚かな 如 雨
藻を潜り金魚逆立ち宙返り
足音でにつこり顔出す金魚かな弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
一昨年は笑顔揃ひし盆踊如 雨
初めての化粧は淡く盆踊
気の合はぬ奴の踊の巧みなる游 悦
ほろ酔いの吾も飛び込む踊の輪
都会でも踊の落ちは炭坑節弁 慶
湯の町の湯の香の匂ふ踊かな

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






あやめ

「櫻草」第137號

2012年5・6月號
当季雑詠
世直しの兆を告げる春一番武蔵 弁慶
国境の谷に一筋春の川
高空と花を従へ天守閣岩渕 如雨
転移なしと告げらる帰途の桜まじ
一盞に酔ひて愛しき山ざくら
白黒の写真にてよし夕燕
長閑さや調子はづれの笛とほる
洋間から妻のソプラノ夕薄暑奥山 游悦
植田より日本再生匂ひ立つ   
離れつつ近づき離れ糸蜻蛉
やうやくに玉の蛤つかまへり

課題句:牡丹、蟻
折れさうで折れない牡丹七重八重弁 慶
独り咲く廃寺の牡丹気高くも
静夜かな牡丹に炎あるごとし如 雨
長谷寺に百花こぼれる牡丹かな游 悦
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
習ひたるやうに墓苑の蟻の道如 雨
日に乾く蚯蚓を引きて蟻の汗
塾帰り子ら騒ぎをり蟻の列游 悦
茣蓙敷けば蟻の斥侯ごあいさつ
いにしへの吉野詣や蟻の列弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






さくら

「櫻草」第136號

2012年3・4月號
当季雑詠
水琴の心耳を澄ます冬社武蔵 弁慶
河川敷やどなし人や福寿草
安達太良の本当の空日脚伸ぶ  
雪掻いて守り本尊詣けり
竜宮の江の島駅やおでん酒
自転車の漕ぎ足速し春の雪岩渕 如雨
春一番この止り木に去年も在り
掌に受けし鶯餅の重さかな
復興に憂ひ残して鳥帰る
みちのくといふ店に入る三・一一  
植木屋の梯子降りくる春の雷奥山 游悦
片栗の花に顔寄せ母と子と
塀高き隣の屋敷藤の花
三月の悪夢忘るや嬰の笑み  
竜飛崎風吹き渡り鳥帰る

課題句:涅槃、朧
かりそめの生命重ねて涅槃の日如 雨
目つむれば涅槃絵図より声のする游 悦
百姓の作付いかに涅槃の会弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
原発に見放されたる牛朧游 悦
下校時の告げるチャイムの音朧
汝が影を追ひし日ありき星朧如 雨
厄介なことを朧に捨てに行く
露天風呂迫り来る山朧かな弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






若竹

「櫻草」第135號

2012年1・2月號
当季雑詠
珊瑚草まだ見ぬ装い夢に見る武蔵 弁慶
足るを知る心がありて栗の飯
晩秋や舟遊びなき隅田川
綿虫やふわりと禍福受け流す  
残されし蜂の飛ぶなり花八手岩渕 如雨
鰭酒の青き炎と遊びけり  
忘れゐし礼状いくつ年の暮
寄りてゐし顔は四方に置炬燵
明六ツの昏きに覗く嫁が君
魚市の声の明るさ春近し奥山 游悦
人恋し風あるらしき焚火かな
初詣固まつて行く社員たち  
古稀となる身は逆らはず春の風邪
駅伝と並んで走る童かな

課題句:若水、猫柳
若水や老いしといへど年男如 雨
若水で淹れし茶に立て茶の柱
城跡の若水を汲むおらが春弁 慶
古井戸の若水汲んでくちそそぎ
若水を汲んで息災祈りけり游 悦
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
子ら遊ぶ風に戯る猫柳游 悦
雨晴れて水に映るは猫柳
ねこやなぎ盛岡なまりやはらかし  如 雨
みちのくに季節めぐりて猫柳
猫に似ず誰が名づけしか猫柳弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






南天

「櫻草」第134號

2011年11・12月號
当季雑詠
ふるさとを捨てる子らあり秋立ちぬ武蔵 弁慶
天の川神秘の世界とこしへに
かなかなの悲壮な響き奏でたり
安達太良の智恵子の空や銀河澄む
露草や目立たぬ装ひ母の影
その色は何想ふらむ曼珠沙華  岩渕 如雨
牧水忌迷はず頼む温め酒  
上州は穏やかな風蕎麦の花
白も青もやさしくなりて秋の空
走り書く句帖に明き小望月

課題句:落葉、日向ぼこ
散華なる落葉の中を歩きけり弁 慶
落葉にも除染必須のときとなり
かの匂ひ法度となりし落葉焚く  如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
日向ぼこ夢寐むびに血滾る頃の我   如 雨
思ふことみな淡くして日向ぼこ
カール・ブッセ口遊みつつ日向ぼこ 弁 慶
至福かな愛読書手に日向ぼこ

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






すすき


「櫻草」第133號

2011年9・10月號
当季雑詠
夏の海幾多の命彷徨へる武蔵 弁慶
片付かぬ瓦礫の匂ふ青嵐
鬼灯の橙を愛でるや出雲さん
袋もちトマトを採るや夕間暮れ
義捐金届けて嬉し二重虹
みちのくの祭に軽き旅鞄岩渕 如雨
真向ひに見なれぬ客や冷し酒
ねぎらはることなき務め蝉しぐれ
「冬蜂」を好む句に選る大暑かな  
目黒路は秋刀魚の煙俄寄席
長き夜律儀な姪の電話かな奥山 游悦
新涼や栓をひねれば水白し
こんなにも子供をりしか秋祭
三陸の海を照らせり星月夜
鈴虫を育てる親に育てられ 

課題句:蟲、紅葉
蟲の声無常の響き奏でけり弁 慶
太古より変はらぬ合奏蟲時雨
夜の狭庭大音声の虫世界游 悦
虫売に値引を頼む童かな
最後尾電車を待てば昼の虫如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
幾度目と知らずまた来ぬ京紅葉如 雨
破れ傘さし紅葉浮く露天風呂
伏流水抱く里山紅葉せる弁 慶
早起きのごほうびたるか初黄葉游 悦

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






風鈴


「櫻草」第132號

2011年7・8月號
当季雑詠
飯豊の噴井ふけゐが醸す銘酒かな武蔵 弁慶
風評に負けず一家の袋掛
油虫巨象に負けぬいのちかな
研修の窓覗き込むほととぎす
寄りてゐし兎離るる薄暑かな  岩渕 如雨
雨もよし黴香の書など改めむ
主逝きし庭の青葉のほしきまま
十薬を美しと見き病み居れば
釣堀の眠き水面の水馬みづずすまし
瓦礫から立ち上がりたる昭和の日 奥山 游悦
老い涼し断捨離あとの書棚かな
サングラス優しき嫁も恐くみえ
職退きて素足で過ごす一ト日かな 
滝飛沫浴びて船行くナイヤガラ

課題句:日傘、七夕
絵日傘を傾げて長き立話如 雨
ゆつくりと産院の前日傘過ぐ
白黒と選びあぐねる日傘かな弁 慶
鶴首してバス待つ佳人白日傘
妻の持つ日傘に半身隠しけり游 悦
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
短冊に余る願ひの星祭 如 雨
飾る街外れて明き二星かな
四世代集ひて祝ふ星祭游 悦
七夕の願ひ夜空に散りばめて
山の湯の清らに澄みて星祭弁 慶

印は佳句とされたもの、選評に取り上げられた作品等です。






あやめ

「櫻草」第131號

2011年5・6月號
当季雑詠
街燈の羞ひ点る春茜 岩渕 如雨
妣の文下書のまま啄木忌 
ふらここや口笛覚えはじめし子
短夜や硝子戸叩き猫帰る
桐咲けば娘の歳を問はればや 
三陸の孤島に残る風車奥山 游悦
底知れぬ地震の揺らぎや夏浅し
世の末はかくの如きか春の地震
津波去り希望の燕飛来せり
鳥帰る地震の日本を忘れまじ 
御柱天空を突く花曇武蔵 弁慶
陽炎や幻の世を見るごとし 
万人の露命呑み込む春の波 
蒲公英や里にひつそり生きてをり

課題句:余花、祭
余花の野や一期一会の境地なり 弁 慶
熊野古道光を放つ余花の中
余花ありて深山の宮の屋根に散る游 悦
余花の旅辿りつきたる故郷かな
法名碑に母の名加ふ余花曇如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
この街は蛍を追ひし田圃にて 如 雨
明滅の代る代るに恋蛍
原発に代へて百万蛍の火游 悦
こはごはと蛍に触れる幼かな
放物線曲線描く蛍かな弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






さくら

「櫻草」第130號

2011年3・4月號
当季雑詠
この年も並で終れよ初神籤はつみくじ岩渕 如雨 
一床の空きて寒九の夜となりぬ
住む人も忘れしごとき冬座敷
冬晴の更地の家や母忌日
節分や鬼は神なり鬼も内   
干潟見て津波を想ふ齢かな奥山 游悦
年経るも目元涼しき雛かな
もう一度机に触り卒業す 
春の夜やウクレレ復習さらふ妻のゐて
陽炎や古地図片手に奈良を行く
御降りや陸の孤島で空仰ぐ武蔵 弁慶
氷柱をも口に含んだ幼き日
自分史の下書きはなし筆初

課題句:春の水、花見
春の水釣糸沈め魚信待つ 游 悦
林泉を探して歩く春の水
春の水岩を選びて下りけり如 雨
春の水吾は本格野良仕事弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
足病みて傘杖に謝し桜狩如 雨
花を見て世を怒りたる人多き
新入りの顔も交じりて花筵 游 悦
人生の至福ひととき桜狩 弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。







若竹

「櫻草」第129號

2011年1・2月號
当季雑詠
うつくしき命のままに紅葉散る岩渕 如雨
障子閉ぢ締切近き句を敲く
雪吊をつつみて速き入り日かな
冬帽を加へて旅荷整ひぬ
幼木も負けじとひとつ返り花
風呂吹きや遠き昔の母の味奥山 游悦
自分史を書き始めたき冬籠
ほろ酔ひの醒めて気がつく寒波かな
置き忘れたる手袋のまだぬくき
水仙の沖に向かひて歌ふごと 
行く秋やうつむく少女終電車武蔵 弁慶
ふるさとの刈田やさしく吾を迎へ
秋黴雨山寺の道ゆつくりと
凩やシベリヤの鬼荒狂ふ
北一輝眠る不動尊木の葉舞ふ

課題句:御降おさがり、猫の恋
御降りはあまねく大地濡らしけり游 悦
御降りは宇宙と吾を結ぶ糸
御降に北斎の不二仰ぎ得ず弁 慶
御降に配達を待つ無聊かな如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
狭庭さへ戦場いくさば となり猫の恋如 雨
恋猫の勾玉のごと寝ねにけり
寝入るのを待ちているらし猫の恋游 悦
飼い猫に聞かせたくなき猫の恋
猫の恋吾は関せず野良仕事弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






南天

「櫻草」第128號

2010年11・12月號
当季雑詠
六地蔵耳を澄ましてきりぎりす武蔵 弁慶
それぞれの弁当競ふ運動会
団栗や童詩の世界醸し出す
供へらる菊を見上げて去来墓岩渕 如雨
啄木の追はれし里の残り柿
群咲きてむしろさびしき野菊かな
道ひとつ違へば暗し秋祭
銘を問ひぬるめを頼む温め酒 
早々と店仕舞ひする冬隣奥山 游悦
黄落のラインを下る異国旅
沖遠く消えてしまいひし渡り鳥
晩菊の色をとどめし地蔵尊

課題句:紅葉狩り、枯木
乗りだしてトロッコの窓紅葉狩如 雨
老いの身に余る贅沢紅葉狩り游 悦
紅葉みち歩めば心燃えにけり弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
夕焼の金の枯木を造りけり如 雨
家並に淡き影おく枯木山
街路樹の枯木となりて道真直ぐ游 悦
凛として蒼天に立つ枯銀杏
新生の胎動はらむ枯木山弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






すすき


「櫻草」第127號

2010年9・10月號
当季雑詠
去る人に思ひ伝へず落し文武蔵 弁慶
湯の町の湯の香にほへる踊りかな
デザートに趣味の三角切り西瓜
キャッチする球児の安堵日焼顔
紫陽花や高校性だけのローカル線
黒雲を怖れず高き立葵岩渕 如雨
夏灯従兄弟再従兄弟はとこの集ひし日
旅終へぬ酒冷えをれば妻も飲む
行く道の光犇く大暑かな
もぎたてを目から味はふ秋茄子奥山 游悦
濃紺の海に染まりし秋刀魚かな
応援歌声張り上げて秋暑し
新蕎麦を打つ手鮮やか旅土産
無花果を丸ごと食べて母元気

課題句:秋思、蜻蛉
海暮れて釣具をたたむ秋思かな游 悦
旧友に会ひて深まる秋思かな
薄翅のひとつ落ちゐて秋思かな 如 雨
蹲る思考の人の秋思かな弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
水を打つ尾の輝きや銀やんま 如 雨
佇ちをれば道案内の鬼やんま
大空の先端好む蜻蛉かな 弁 慶
宇宙人に似たる複眼鬼やんま
ついと来てふいと飛び去る蜻蛉かな游 悦
こはごはと蜻蛉に触れる幼かな

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






風鈴


「櫻草」第126號

2010年7・8月號
当季雑詠
寂れ村昔は繭が生き生きと 武蔵 弁慶
石楠花を竹馬の友と愛でり合ふ
ダービーや一瞬どよめき
しやがみ込み雑草とるや薄暑光
観光船傾け逃ぐる卯浪かな岩渕 如雨
馬鈴薯イモ の花うす紫の闇に消ゆ
今年竹軒に届きて切られけり
神様はいずこにおはす町祭 
工房のガラス職人汗しとど奥山 游悦
合いづちに代へてうなづく団扇かな
通院の身をいとほしむ大暑かな 

課題句:夏燕、端居
暮れなづむ路に一閃夏燕如 雨
鍵型の路地を難なく夏燕 
ナイヤガラ飛沫の中へ夏燕游 悦
徳之島騒動よそに夏燕弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
夕端居妻のハミング聞えけり游 悦
端居する子の横顔の大人びて 
休酒日と決めて長びく夕端居如 雨
知恵なくも世の中憂ふ端居かな
古民家の障子外して端居風弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






あやめ

「櫻草」第125號

2010年5・6月號
当季雑詠
白魚やひた向き生きる命あり武蔵 弁慶
ふるさとの原野に残る別れ霜
矍鑠かくしゃくを願つてひとり畑を打つ
病み居れば分厚き花見案内来る岩渕 如雨
庭に出て猫すぐ帰る別れ霜
日の没るやいよいよ白し花辛夷
春暖や入り日を映す轍水 
り出して川面に競ふ桜かな 
遊ぶ子の声の弾けて夏来る奥山 游悦
緑陰に裸婦の浮き出るルノワール
釣堀に古稀の一ト日を過ごしけり
込み入つた話さておき生ビール
花冷や続きて友は黄泉の国

課題句:祭、杜若
綿菓子の列の長さや町祭如 雨
早々と祭衣装の朝餉かな
気もそぞろ祭囃子の果つるまで游 悦
里山の天まで届く祭笛弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
お目当ては池に群咲く杜若游 悦
目に優しほとかたまりの杜若
みどり児のいとけなき笑み杜若弁 慶
はなびらの揺れて揺るがぬ杜若如 雨

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






さくら

「櫻草」第124號

2010年3・4月號
当季雑詠
昭和史に己を重ね年迎ふ武蔵 弁慶
冬将軍墨絵の世界描きけり
おでん屋の灯り暖か誘はるる
黒髪も茶髪も真面目恵方道
宵星を連れて褪せゆく冬茜岩渕 如雨
日短や昼残したる握飯
失せ物はいづれ出づべし蜜柑剥く
低唱の寮歌の過ぎて冬木立
吹き渡る風の大地や麦青む 奥山 游悦
森繁の恋ふ知床に残る雪
校庭のチャイム終りて卒業す
大空へ道をたがはず鳥帰る

課題句:春の山、日永
おほらかに生きよと教ふ春の山游 悦
憂きこともすべて忘れむ春の山
生れ出づ小さき水音春の山如 雨
田圃道遠くを見れば春の山弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
甲高き声路地にある日永かな如 雨
己が影追ひて日永の一万歩
寂れ町昔変はらぬ日永かな 弁 慶
鳥獣の水に親しむ日永かな
物売りの声の遠のく日永かな游 悦

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






若竹

「櫻草」第123號

2010年1・2月號
当季雑詠
冷泉の世界に触れていちよう散る武蔵 弁慶
夜なべする母の面影今もなほ
小春日やラーメン啜る蔵の町
合掌の屋根を染めゐる赤紅葉
山門を抜けくる落暉日短し岩渕 如雨
落柿舎の柿を写して旅終ひ
ひと雨に半身を削る紅葉かな
室咲の花の憐れや友の逝く
頼みたきことまた増えて神の留守
お目当ての大樹に触れて秋深し奥山 游悦
何事か言ひ残したき返り花
菰まとひ小さく笑むや寒牡丹

課題句:雪、日脚伸ぶ
見苦しきものみな消えて雪の朝游 悦
街灯に体当たりする吹雪かな
中天なかぞらを分けるクレーンやしづり雪如 雨
信号の赤をぎりて雪しぐれ 
豪雪や己の心鍛錬す弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
日脚伸ぶ山椒の棘影定か如 雨
物買うて帰路は急がず日脚伸ぶ游 悦
ビルの影避けて歩むや日脚伸ぶ弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。











村上谿聲主宰の句は巻頭句などの掲載がありますが、除いています。
誤字、仮名遣いの誤り等がありましたらお知らせください。

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※ 2006年から2009年分を別ページに分割しました(2013.01.05)。


<『櫻草』掲載記事>

大震災被災地大槌高校との交流('12年3・4月号)
游悦氏親子句集「折り鶴」紹介(坂口青郎氏)('11年11・12月号)
鬼城草庵での句会('10年5月開催)('10年7・8月号)
当会句集「三光鳥」紹介(高橋親史氏)('09年11・12月号)
当会紹介記事(坂口青郎氏)('06年5・6月号)



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