萩の香る宮城野

『櫻草』掲載の会員の俳句-壱2006~09年

村上谿聲主宰の五日会俳誌『櫻草』に掲載された会員の句を紹介します

2006年から09年掲載分です。
俳句の配列は「櫻草」掲載順です。
同人自選句集「青萍集」所載分は別ページに移しました。
※ 誤字、表記違い等がありましたら、ご連絡ください。


もみじ

「櫻草」第122號

2009年11・12月號
当季雑詠
許されて京の紅葉の宿をとる岩渕 如雨
うろこ雲肩書のなき名刺刷る
雨に剥く林檎の皮の長さかな
声大き客の残せし秋刀魚かな
秋雲やたれに別れを告げて来し
もどかしや栗の実口に入るまで奥山 游悦
洋館をめらめら燃やす蔦紅葉 
月の夜人の世を去るかぐや姫
ギリシャ史をひたすら学ぶ文化の日
秋桜乙女の仕草風に揺れ 武蔵 弁慶
うさぎらの童話の世界秋の月
食欲の秋や妻より万歩計
栗の実や世情に叛く子沢山
ふるさとの盆地一色稲穂かな

課題句:小春日、鴨
小春日や木漏れ日やさし雑司ヶ谷游 悦
小春日や羅臼の浜の昆布干し
小春日や吾を映せし父母の墓如 雨
小春日や古書店主人居眠りし弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
鴨群れて世間話を交わすごと 游 悦
鴨翔ちて碧き水紋ひろごりぬ
好日や水面を滑るつがひ鴨 如 雨
残照に飛沫しぶき残して鴨の陣 
橋の下つがい初鴨ゆつたりと弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






すすき


「櫻草」第121號

2009年9・10月號
当季雑詠
ひと組の客出て夕立止みにけり岩渕 如雨
訥々と語る来し道冷奴
気懸りな検査前夜の遠花火
重き荷や白さえも憂し夾竹桃
独居や二三度立ちて遠花火
ノック受け汗の球児のランニング小川 修人
雲黒くつくつく法師の途切れがち
単線の無人駅舎や夏の月
禅寺の池に列なす緋鯉かな
菊花展名札はどれも誇らしげ奥山 游悦
マンションの灯の数増えて虫の夜
猫じやらし駄洒落のうまき友のゐて
よく見ればそこここにあり残り菊
大海に思ひをつなぐ川泳ぎ武蔵 弁慶
若き日や大志を抱き雲の峰
はまなすや青春の歌知床に
振り下ろす鍬の五つで玉の汗
江戸切子無色に映える心太

課題句:灯火親しむ、柿
夜更けまで灯火親しむ千年紀 游 悦
子の寝息灯火親しむ山の宿修 人
熱き茶に替へて灯火を親しめり如 雨
古稀にして灯火親しむころとなり弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
屋根伝ひ隣家の柿を食ひし頃修 人
茅葺の家に被さる柿たわわ
柿剥くや地球のごとく自転させ游 悦
吾にまだ役目あらんか残り柿
ふらふらと柿採る竿の上りけり如 雨
柿植えて三十年で三十個弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






金魚玉


「櫻草」第120號

2009年7・8月號
当季雑詠
梅雨空に塔の幾何学模様立ち武蔵 弁慶
ほととぎす夢見つ笑ふ赤子かな
葉桜や老人一人見つめをり
透谷と美那子の出会ひ藤香る
合歓眠る朝来し道を戻りけり岩渕 如雨
狛犬の鼻くづれをり新樹蔭
青葉風古き椅子置く停留所
夏痩せて腕には大き時計かな
遥かなるダムへの道や朴の花小川 修人
弟に亡父の面差し夏帽子
不揃ひの吹奏楽や風薫る
無人駅通り抜けるや青田風奥山 游悦
巡航船行く手をはばむ卯浪かな
耕運機ひとり働く田植かな
川遊び五月の風の通り道
新地下道夏は上野の広小路合田三鬼堂
道端の草も輝く皐月かな
山上の雨乞池は蝌蚪の国
蓮の葉の背伸びしては水面うめ

課題句:蓮、花火
北国の碧空深し蓮の花修 人
蓮浮葉童子の菩薩遊びゐる
蓮の花咲く音聞けり空耳か游 悦
生きぬきし種子の硬さや大賀蓮如 雨
蓮の花仏のごとく凛と笑む弁 慶
蓮咲いて人待ち顔の蓮見茶屋三鬼堂
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
花火見の心許なき下駄の音 如 雨
手花火や及び腰なる小さな手
大空に戦仕掛ける花火かな游 悦
ビル街の隙間に見ゆる遠花火
連発の後は少し間揚花火修 人
諸人の心華やか大花火
高層のビルより低き花火かな三鬼堂
遠花火駅々ごとに遠くなり弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






あやめ

「櫻草」第119號

2009年5・6月號
当季雑詠
つばくらや古酒醸し出す蔵屋敷武蔵 弁慶
里山の狐々の声聞き山笑ふ
連翹やまぶしいほどの垣根越し
採り立ての蕗味噌食ぶる夕餉かな
一合の酒あればよし昼蛙岩渕 如雨
連翹や隣の庭をのぞく癖
うららかや猫の目瞑ること幾度
啄木忌裏に声ある等光寺
連翹の思ひの丈の浅黄空小川 修人
それぞれの思ひに揺るる葱坊主
日の当たる空き地恋猫五六匹
徒然の日々を楽しむ朝寝かな
南方の魂魄運び初燕
人情の果てを見とほす傘雨の忌奥山 游悦
湖にほどよくヨット散らばりぬ
鯉幟祖父の願ひがひるがへり
日本に帰りてうれし青田かな
ベランダに王者のごとし君子蘭
花あれば花の数ほど歩みけり合田三鬼堂
願いごとうかがい地蔵へ梅雨晴れ間
争いの無き世願ひつ夏は来ぬ

課題句:更衣ころもがえ、走り梅雨
細き娘のますます細き更衣三鬼堂
樟脳の匂纏ひし更衣
いつもやや人に遅れて更衣如 雨
青白き腕を撫しつつ更衣
姿勢良き少女断髪更衣修 人
切れ長な双眸清し更衣
更衣生徒の手足生き生きと游 悦
更衣色かはりたる身の軽ろし
それぞれの人の色した更衣弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
庭石のうっすら濡れて走り梅雨游 悦
走り梅雨気になる空に雲しきり
走り梅雨雨垂れ拍子の謡かな修 人
広重の雨は直線走り梅雨 
保津川に舟待つ窓や走り梅雨如 雨
広重の生野を思ふ走り梅雨 弁 慶
ワイパーを都電動かす走り梅雨三鬼堂

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






さくら

「櫻草」第118號

2009年3・4月號
当季雑詠
手袋の中に秘めたる生命線武蔵 弁慶
年男赤ベコ撫でて初詣
七草や若い命の満ち溢れ
鎌倉の老舗を飾る鏡餅
水割のジンの音澄む霜夜かな岩渕 如雨
目の合うて猫の欠伸や去年今年
鐘の音の凍て届きたり古稀の朝
まづ晴と日の出の時刻初日記
マフラーを厚手に替へて遠き旅
耳澄ませ谿聲聞ゆ木の芽山小川 修人
庭に生ふ三種を入れて七日粥
冬霞遠き連山昏れにけり
身じろぎもせぬ裸木に夕日影
子を抱いてゆるゆる入る初湯かな奥山 游悦
蝋梅の掛花一枝気も新た
人の世を深く知りたし西行忌
春眠や果てなき夢に遊びけり
鍋焼きの手間と暇かけ味はよし合田三鬼堂
鎖骨折り妻の養生春炬燵
歌舞伎町の鬼は見得切る追儺かな
浮世絵師の墓に降りしく桜花

課題句:啓蟄、花時
啓蟄や蟻の偵察部隊出づ修 人
啓蟄や温もり感ず足の裏
啓蟄や亀寄りあひて甲羅乾す三鬼堂
啓蟄や入れ代はりある社宅かな
啓蟄や習ひ始めの一輪車如 雨
啓蟄や怖ぢけず背伸び発表日
啓蟄の土ほこり舞ふ牛舎かな游 悦
啓蟄や我も出るぞと身構へる弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
西方は雲の曼陀羅さくらどき修 人
酔ふ人も酔はざる人も花のとき
花時の墨田川行く小舟かな游 悦
花時も過ぎて野山は静かなり
円空の笑みは優しき花の頃三鬼堂
花時や妻は憂ひのなきごとし如 雨
人盛る上野の山も花盛り弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。(今号はなし)






若竹

「櫻草」第117號

2009年1・2月號
当季雑詠
大空の広きに集ふ秋茜武蔵 弁慶
短日や農仕事早め切り上げる
朔太郎月に吠えての夜寒かな
冬日向小吉の籤結びけり岩渕 如雨
文鎮の冷たきを置き摩訶般若
同じやうな咳する男座りけり
片付かぬ本に囲まれ風邪籠
青空をぽかりぽつかり雲の輿小川 修人
往還の木曽の社の薄紅葉
木曽馬の放牧場や紅葉晴
参道を下り来る僧の息白し奥山 游悦
おでん屋の暖簾くぐりぬガード下
スキーヤーつかず離れず坂下る
寄せ鍋に皆の視線が集まりぬ
蒼天に蔵王新雪眩しけり
野仏の顔を覆いし秋の草合田三鬼堂
カリンの実不揃ひ不揃ひ空に浮く
残る福もとめて浅草三ノ酉

課題句:初旅、 梅
古希迎ふ気分新たに旅はじめ 修 人
初旅の古道歩きと寺詣
初旅やなんじやらほいの木曽の宿 
初旅や古い鞄も誇らしく俊 知
新幹線晴るれば富士見よ初の旅
初旅はいつものとおりふるさとへ弁 慶
初旅や朝一番の汽車に乗り游 悦
初旅や泳ぎし川の細かりき如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
異国人案内して観る梅の花三鬼堂
梅枝の路地にはみだす谷中かな 
梅咲いて何怒りしか忘れたり如 雨
梅一輪百花に適ふ忌明けかな 
神さびて吾にほころぶ臥龍梅修 人
青空に枝先溶ける野梅かな 
梅もげば青春の香の匂ひけり弁 慶
梅園やいずれの梅の香りやら游 悦

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






もみじ


「櫻草」第116號

2008年11・12月號
当季雑詠
秋刀魚焼き春夫の詩を口遊む武蔵 弁慶
ふるさとの新涼求めバスに乗る
連山を望みて里の柿簾
朝顔や千代の心を思ひけり
子規庵の糸瓜八本ぶらさがり
忘れてもよきこと多し秋入日岩渕 如雨
萍の吹かれし面や秋の雲
啄木の寝転びし城草紅葉
秋の湖腹を曝せしボートかな
谿聲に耳傾くる紅葉酒小川 修人
志ある句を詠まん天高し
才人の畏友は逝けり曼珠沙華
単線の終着駅は曼珠沙華
歳時記に押し葉となりて草じらみ
高層を競ふマンション鰯雲奥山 游悦
足の向く気の向くままの紅葉狩
新しき歳時記買ひぬ文化の日
わが住まひ熱燗のほか友いらず
漱石忌我が才能の貧しさよ
秋冷や朝日の影に背を伸ばす合田三鬼堂
秋晴や大川のぼるはしけかな
ボール打つテニスコートや山装ふ
天候の不順に耐へし糸瓜かな
いつの間に庭に住み居る彼岸花

課題句:冬木立、山眠る
北限の野猿は哀し冬木立  三鬼堂
間伐かチェーンソー鳴る冬木立修 人
こんもりと淡き墨絵の冬木立游 悦
大空に出番を待てる冬木立弁 慶
冬木立影入り交はし夕日去る如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
山眠る杉も立ちゐて眠りけり  如 雨
山眠る往古の夢を手繰りてむ
諦めにあらず達観山眠る修 人
人の世のことはさておき山眠る
天空に月はたたずみ山眠る三鬼堂
山城の天守も山も眠り居て
山眠る妻のひとこと発奮す弁 慶
借景の山も寺院も眠りけり
猟銃の音谺せり山眠る游 悦

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






すすき


「櫻草」第115號

2008年9・10月號
当季雑詠
薬師寺に平癒祈りし夏の雨合田三鬼堂
花火師の技を競うや隅田川(俊知改め)
胸突坂へ脚の震える大暑かな
朝顔へ半纏水やる入谷かな
弱き我英気いただく雲の峰武蔵 弁慶
雲の峰天地有情の境地なり
修験道法螺貝吹きて雲の峰
夏痩せの妻畑作に精を出し
まとひつく蜘蛛の囲はらひ剪定す
迎火や大徳利を選りてきし岩渕 如雨
紅させばそれにて佳人花浴衣
ただいまと言へど主なき立葵
日昇りて乾かぬ翅の蝉動く
御湿りの去りて忽ち蝉時雨小川 修人
声大き球児の背に雲の峰
馬鈴薯の花の果てなる地平線
難病の指定受けたり青ぶだう
北の果てコスモス揺れる浜辺かな奥山 游悦
水澄みてゆらりと動く魚影かな
鳥翔ちてななかまどの実残しけり
笛の音のもの悲しきや秋祭

課題句:野分、秋の山
野分過ぐ骨折れ傘の散らかりて三鬼堂
公園に干物をみる野分晴(俊知改め)
野分去り増へたる星の名を問はる如 雨
開港の絵飾る店や野分立つ
風天の一日天下野分かな修 人
嵯峨野原かなしく吹ける野分かな弁 慶
廃屋の壁剥がれをり野分かな游 悦
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
空澄みて声も澄みたり秋の山 游 悦
人影のなき秋嶺をはしいまま
秋山や雨より早く雨の音  如 雨
山粧ひ出湯は染まる湯治かな三鬼堂
淋しさを覆ひ隠せよ秋の山修 人
磐梯の噴火の跡に山粧ふ弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。
なお、谿聲主宰病臥のため前114号から当季雑詠の 印 はありません。






あさがお



「櫻草」第114號

2008年7・8月號
当季雑詠
いろいろなものまとひつき梅雨に入る岩渕 如雨
鬼灯のふたつ赤むを買ひてきし
半年の無沙汰の筆の夏書かな
父が植ゑ母も好みし立葵
籐椅子の軋みて父の十年忌
ががんぽや我も余光の日を送る小川 修人
此所彼所煩悩無尽女郎蜘蛛
華やげど忽ち消ゆる揚羽かな
煩悩をこぼして舞へり夏の蝶
この世には憂ひの無きか熊ん蜂
お茶会を終へし嬋娟せんけんつつじ咲く奥山 游悦
そこここに客かたまりて川開き
波乗りの若者白き歯を見せて
尾根伝い転々と行く登山帽
ブルージュの春風切って馬車走る
下北の緑は浅き五月かな合田 俊知
巡礼の喉を潤す岩清水
道祖神のほおかぶりするやませかな
恐山の夏風すぐる地蔵堂
やませ吹く人みな無口網手入れ
継之助傷つき辿る桐の花武蔵 弁慶
実盛の兜に涙芭蕉かな
苦界避け池に潜むか昼蛙
今の世に何を願ふか武者人形
武者人形矮小にして勇ましく

課題句:雷、蜩
大仏は泰然自若雷去りぬ 修 人
雷神も恋ふらん豊頬吉祥天
雷を退散させる仁王かな 
迅雷の送り迎えや上州路 俊 知
遠雷は旅人急かす峠越え 
雷の宗達の威を借りしかな 弁 慶
いきなりの雷鳴街は震えたり游 悦
雷恐る卒壽の母のそら笑ひ如 雨
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
ひぐらしや巡礼山門一礼す俊 知
ひぐらしに和尚の戻る古刹かな俊 知
蜩や応援の声なほ高く 如 雨
転寝や風の連れ来し遠ひぐらし
かなかなの輪唱続く日暮かな修 人
蜩の王国ならん雑木山
かなかなや生きる哀しみ伝へをり游 悦
蜩や宿題の山片付かず弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。
なお、谿聲主宰病臥のため今号から当季雑詠の 印 はありません。






あやめ

「櫻草」第113號

2008年5・6月號
当季雑詠
来るたびに孫の重さや鯉幟 奥山 游悦
春惜しむ青春惜しむ世を惜しむ
老妻が童女に還る磯遊び
兄逝きて間遠となりし帰省かな
手術終へ目に沁み入るや夏芝生
碧梧桐自筆の墓標梅香る 小川 修人
未来への仄かな希望春の星
アネモネや妖精たちの栖む処
空色はわがためなるぞ犬ふぐり
横丁の春泥避けて猫の道
鳥過ぎる影の速さよ春あした岩渕 如雨
瞬きてそこに生まれし春の海
言ひ合ひて缶蹴り帰る一年生
読経終へ僧の語るや堂ぬくし
海棠や誰か誉めさう稚児化粧
町並に映えて谷中の櫻かな合田 俊知
業平の駅に集ひし花見客
隅田川川面を埋めし花見舟
老舗湯屋閉づるを惜しむ春の雨
庭師入り巣箱露や春の庭
冬晴れやどこまで伸びるクレーン塔武蔵 弁慶
雪降つて景となりたる狭庭かな
西側の屋根に残雪留まれり
株下がりなすべき手なし余寒かな

課題句:短夜、鮎
明易や雲従へて山座る如 雨
短夜や雨かと覚めぬ川の宿
明急ぐ帳の隙に陽の光俊 知
短夜や釣り宿客の慌し
亡き友と夢幻語らふ短夜かな 修 人
短夜や異国の宿で句友識る游 悦
短夜やストレス多く眠られず弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
夕星ゆうつづや姿良き鮎串にあり修 人
北限の鮎鮓うまし余市川 
釣人の鮎はむ岩を究めけり 俊 知
塩振らる鮎の目さらに激しかる如 雨
床の間の渓流の中鮎泳ぐ弁 慶
水みどり釣られし鮎の白き腹游 悦

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






さくら

「櫻草」第112號

2008年3・4月號
当季雑詠
若水の湧きくるところ井之頭 合田 俊知
門前に琴の音流す初薬師 
ひろき道迷い出でたる寒念仏 
治郎吉の墓石削らる入試かな 
鳥帰る別れを惜しむ都鳥 
手鏡に紅なほす巫女息白し 岩渕 如雨
(つむ)りゐて故郷過ぎる初湯かな 
故郷の神札(ふだ)は残して札納 
詠みあぐね頬杖多き三日かな 
土混じり野うさぎとなる今朝の雪 
激動の年のシンボル嫁が君 武蔵 弁慶
初春や神田古書店客ひとり 
神さびる巫女より受くる破魔矢かな 
良寛の座禅せし寺初明り 
朝よりの初湯上がりてすがすがし 
流氷の港に青き船の道 小川 修人
寒明けて噴火のごとく杉花粉 
水仙の一叢路地に日の恵み 
この先は夢幻泡影雪女
虚子一途悔しさ消えず久女の忌
春眠に吸い込まれけり妻の声 奥山 游悦
天空に変幻自在揚雲雀
啓蟄や植木鉢にも芽を凝らす 
棒切れに蝌蚪の紐下げ児らはしゃぎ

課題句:雛祭、朧
雛祭朝のあいさつ歯切れ良き 如 雨
ひな飾る家らし子らの歌ふ声 
相模灘風も優しき吊し雛 俊 知
下校の子手に手に千代の雛を持ち 
おしゃべりな孫とおはじきひなまつり 修 人
浅草の老舗古雛飾りけり 弁 慶
紙雛を孫に送りて便り待つ 游 悦
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
初恋の人は去りゆく朧かな 俊 知
不忍の鳥は眠りし朧かな 
水煙の空に溶けゆく朧かな 
主なき庭のミモザの花おぼろ 游 悦
朝まだき夢うつつなる鐘おぼろ 
群れをなしおぼろの山へ夕烏 修 人
朧夜の一本道を我ひとり 如 雨
露天風呂入りてひとりの朧かな 弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






若竹

「櫻草」第111號

2008年1・2月號
当季雑詠
芝居はね盃かさね走り蕎麦合田 俊知
外堀の桜紅葉や電車往く 
銀杏散る人へ車へ銀杏散る 
身代りの地蔵尊あり寒の雨 
石蕗の隠れ咲きゐる小路かな 
登り来て年寄り自慢秋日和岩渕 如雨
城跡の夢の先なる蔦紅葉 
散り急ぐ桜紅葉や川走る 
黙祷に始まる集ひ冬隣 
襟首を木枯一号山光る 
柿たわわ空は青きを増しにけり小川 修人
校庭に理科観察の稲稔る 
落葉掻く慈顔碧眼修行僧 
頭垂れ警策愛くる鵙日和 
新米を仙台味噌と味はへり武蔵 弁慶
狛犬に見守りまかせ神の留守 
剪定の終わりし庭に添水かな 
秋灯火丸山真男再読す 

課題句:筆始、蕗の薹
鬼城の書座右に置きて筆始 俊 知
書初は寿一字の齢かな 
傍らにぐい飲み置きて筆始  修 人
勢ひのある一文字の筆始如 雨
平凡と非凡境地で筆始 弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
ガリ刷りの文集出でぬ蕗の薹 如 雨
これいかが暖簾収めて蕗の薹 
六地蔵在す路辺に蕗の薹 修 人
なほ尖る風にふくらむふきのとう 
市ヶ谷の蕗の薹みるお堀かな 俊 知
近道と千鳥ケ淵や蕗の薹
蕗の薹土の気孕み出でにけり 弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






もみじ

「櫻草」第110號

2007年11・12月號
当季雑詠
地の熱を天に吐き出す百日紅 小川 修人
蒼天に秋風颯颯ちぎれ雲
いつまでも終らぬ記憶原爆忌
仰向けに蟻と戦ふかなぶんぶん
熱波去り日暮とともに虫時雨
秋の蚊の生の一念我を刺す岩渕 如雨
秋の蝶駅の花屋の鉢に舞ふ
敬老の日も飲み慣れし酒一合
窓わづか開け蟋蟀と幾ときか
かすかなる風のあるらし蕎麦の花
踊り手の大地踏み締む秋祭合田 俊知
秋の陽や招き猫のみ豪徳寺
集団の自決めぐりて秋深し
すき焼きに明治の味みる湯島かな
ふるさとの風に波打つすすきかな武蔵 弁慶
外風呂に入りてひとりの残暑かな
好色の言葉消えたり西鶴忌
ふるさとの芒茫々生ひ茂り

課題句:目貼、一茶忌
大層な仕事せしごと目貼めばり終ふ如 雨
古民家にかすかに残る目貼かな弁 慶
疎開せし頃の思ひ出目貼かな修 人
姉兄の母を手伝う目貼かな俊 知
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
床の間の蛙正座や一茶の忌 俊 知
描かれし人物まろき一茶の忌
古里の家に父母なし一茶の忌如 雨
露の世に齢重ねて一茶の忌 
一茶忌や屋号こばやし走り蕎麦修 人
一茶忌や月と仏の信濃人
不遇ゆゑ秀句生み出し一茶の忌弁 慶
 

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。







すすき


「櫻草」第109號

2007年9・10月號
当季雑詠
山門の内なる霊気凉けれ 小川 修人
花擬宝珠うすむらさきの雨含む 
梅雨晴や白線新た草野球
滝落つる光のしぶき一直線
青畳大の字となる大暑かな
意見され反論できず滲む汗 武蔵 弁慶
愛蔵の竣介絵売り新茶飲む
夕立に広重生野思ひけり
調べもの一日ひとり梅雨ごもり
老人の迷子アナウンス夏の宵
垂るる穂の毫も動かぬ暑さかな 岩渕 如雨
啄木の墓はまなすの残り花 
花火果つ宴の声のなほ高く 
幼児の箸には難し心太 
空席の増えし列車や遠花火 
世事疎き我の好みや心太合田 俊知
梅雨空や別れもありし神楽坂
石仏を洗ふ根岸や水凉し
打ち水の古き路地ある下谷かな
弁天堂囲みて広き蓮華かな

課題句:震災忌、湿地
老猫の大きく伸びて震災忌如 雨
大川の蕉翁潤むや震災忌
下町をそぞろ歩くや震災忌修 人
雑踏の一人でありぬ震災忌 
天災の後は戦災震災忌
震災忌写真に見入る慰霊塔俊 知
幅広き昭和通りや震災忌
幼い日夜空にグラマン戦災忌弁 慶
幼い日大人が泣いた終戦日
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
いでわれも湿地の山に分け入らむ 修 人
ふるさとの縄手通りに湿地売り 
湿地生ふる山にてありし新開地 如 雨
はらからの揃ひし膳に湿地かな 
鍋に入りなほ丈競ふ湿地かな 
鳥うちの腰にさげたるしめぢかな 俊 知
森林の英気で育つ湿地かな 弁 慶
冷や酒の通しに匂ふ湿地かな 

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






風鈴


「櫻草」第108號

2007年7・8月號
当季雑詠
鮒鯉も川鵜も昼寝の烏川 合田 俊知 
菅公の産湯の井戸や枇杷実る 
加茂茄子は若冲生地に売られけり 
貴船川式部の恋路青楓 
貴船川そうめん流す葦簾蔭
青柿の落つや職退く時と知る 岩渕 如雨 
伐りし木に冠のごと柿若葉 
驟雨きて僧足早に永平寺 
白髪の抱ふる薔薇や深夜バス 
早々に猫の昼寝の場所決まる
更衣天の香具山思ひけり 武蔵 弁慶
鰐口の首響きけり春の宵 
豪商の白壁朽ちて春の雨 
磐梯の真白き峰や春の風 
円仁の偉業を辿るつつじ道 
草茂る三叉路に佇つ道祖神小川 修人
遠雷に奥歯の疼く夜更かな 
田水沸く路辺に石の大黒天 
切れ長におはす大仏風薫る 
三伏や大仏の背は開かれて

課題句:夏館、七夕
猫のやうに通り抜けたし夏館如 雨
雨あがる蔦の窓開く夏館  
夏館ふくらむ雲の濃さ淡さ 
夏館楡の木蔭に微睡めば修 人 
風とともに去りぬ青春夏館 
あけはなし世俗すてたる夏館俊 知
庭に出て水琴窟聴く夏館 
武家屋敷風の素通り夏館弁 慶
禅寺の坐禅道場夏館
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
みちのくの雨に二星の逢瀬かな 如 雨
それぞれに傘かしげゆく星祭  
七夕や星座をふたつ知りしころ
みちのくや七夕飾りにからくりも俊 知 
商人の意気は七夕飾りかな 
わが学都七夕まつりなつかしき弁 慶
仙台の七夕かざり軽やかに 
軒に吊す七夕人形わが故郷修 人

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






あやめ

「櫻草」第107號

2007年5・6月號
当季雑詠
忘れゐしピースの香り啄木忌 岩渕 如雨 
ひこばえや横断歩道を子ら走る 
海棠の蘂に葺かれし小灯籠
相客も同じ蕎麦にて花の酒
静もれる板戸の家や花辛夷
弥陀仏の慈悲に笑むやう白牡丹 小川 修人 
たそがれて処々に水紋残る鴨 
麦秋やゴッホ兄弟眠る丘 
鉄線花大慈大悲の風に和す 
海棠の揺るるは貴妃の笑むごとし
勝浦や六十段の雛飾合田 俊知
心せく都踊や京の春 
花満ちる社に祈る三姉妹 
花人となりて忘れる足の萎え 
雪解けの水のささやくひとりごと 武蔵 弁慶
春愁や外出に財布をまた忘れ
蒲公英や凛然とした母思ふ 
縁の下大声上げる猫の恋

課題句:カーネーション、なまず
カーネーションの赤を選びぬ百カ日 如 雨
はらからの名並べ白きカーネーション 
幼きが気取り顔してカーネーション修 人
食卓のカーネーションに朝の風
カーネーション送りたき母今はなし弁 慶
明るきは歩道を飾るカーネーション俊 知
カーネーション飾りし日比谷花の店 
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
梅雨鯰腹に蛙を入れたるか修 人
その名より味は淡白鯰鍋
ざんざ降る野川の主ぞ大鯰 
釣り上げし鯰静かや魚籠のなか俊 知
鯰焼く肉の白さや膳の上
針呑みてなほ悠悠と鯰かな如 雨
鯰の実白きマシュマロ思ひけり弁 慶

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






さくら

「櫻草」第106號

2007年3・4月號
当季雑詠
食積の母につながる妻の味 小川 修人 
かたまりて和気藹々の福寿草 
残月の艶なる空につばくらめ 
日向ぼこ子犬の足の太さかな 
たたなはる山並おぼろ里の灯も
晴無風よき年ならむ初日記 岩渕 如雨 
星がみな大きくなりぬ霜夜かな
七日粥母の流儀でつくりけり
しはがれし声を競ふや年の市 
三日はや戸を閉づ無住の社かな
遠富士を描き出したる初日かな合田 俊知
寒行の団扇太鼓や坂の街 
大寒や日溜りを行く黒き猫 
佳人来て指折り数ふ梅の園  
文豪の俳句濫觴漱石忌 武蔵 弁慶
権現が起源の庵水仙花
雪なくて雪囲とは淋しけれ
初空にくっきり富士の綿帽子

課題句:五加木うこぎ、春暁
ほろ苦き想ひさておき五加木飯修 人
手の甲を五加木に掻かれ庭手入れ
旅人の五加木てんぷら愛でにけり俊 知
嬰嬰泣けば風なくも落つ五加木花如 雨
嬰嬰泣くやおもちゃのやうな五加木花 
菜飯食べ幼いときの母思ふ弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥
春暁の雲間に浄土垣間見る 修 人
春暁や低く旋回鳩の群  
春暁や小公園の太極拳
春暁は枕草子の世界たり 弁 慶
春暁に清少納言を思ひけり
春暁や通知待つ日の茶の柱如 雨
春暁や眠たき犬の曳かれをり 
春暁や急がぬ旅の早目覚め
大川に繋船眠る春曙かな俊 知
春暁や観音すでに目覚めけり

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






若竹

「櫻草」第105號

2007年1・2月號
当季雑詠
柿吊す母屋に響くジャズピアノ 小川 修人
落城の主従の墓に野紺菊 
飛び飛びの休耕田に泡立草 
鉦叩き枕の合はぬ旅寝かな 
しぐるるや波音とどく露天風呂
宿場跡路傍に蜜柑の実るのみ合田 俊知
両国や初場所看板歳の暮 
竹本のいろは送りや歳終る
歳時記の電池新たに歳の暮 
石割の桜もみじに日照雨そばへかな岩渕 如雨 
夕日きてこがね色濃き晩稲かな
茅屋根の苔光りをる夜寒かな 
陽だまりに茶喫む庭師や冬構 
山小屋の冬眠告ぐる釘の音 武蔵 弁慶
ふるさとの景となりたる冬囲 
今年また溝に咲きたる秋桜

課題句:寒卵、麦踏
老鶏のくぐもる声や寒卵 如 雨
寒卵粥の真中に埋もれけり 
朝膳や碾割り納豆寒卵俊 知
寒卵特売とせり野菜売り 
安曇野の思い出話寒卵修 人
留守番の一膳飯や寒卵
朝食の日の出のような寒卵弁 慶
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
後ろ手に麦踏む人の影法師 修 人
麦踏や段々畑下りつつ 
麦踏や裾野の長き赤城山 
麦踏の影直角に畦を切る 如 雨
子の足に余る地下足袋麦を踏む 
麦踏にミレー晩鐘思ひけり 弁 慶
麦を踏む親の真似する頬被り俊 知
麦踏むや麦の強さの一筋に

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






もみじ

「櫻草」第104號

2006年11・12月號
秋めくや夏の歳時記繕ひぬ合田 俊知
虫の音を聞きつつ楽堂開くを待つ 
能楽堂出づれば虫鳴く現世かな 
役者寺まず出迎へし酔芙蓉 
ふるさとのもろこしかたきよはいかな 
あめつちの虚実の間を虫時雨小川 修人
稚児落し故事ある懸崖照紅葉
頂上や八方世界霧の中
枯枝に嗄れ鴉の地獄谷 
ここ連夜雨に負けじと虫すだく 
玄関に淋しく残る茄子の馬武蔵 弁慶 
庭園の池をするする行く小鴨 
大根の味噌汁うまし妻の味
山柿の夕日の映ゆる朱色かな
山小屋の冬眠間近し雪囲
そろそろと煙塊来り花火尽く岩渕如雨 
放生の野にすっきりと曼珠沙華 
門閉づや園児の植ゑし夕化粧 
風よしと書けば忽ち残暑来る 
道暗む下駄は苦手の浴衣かな
蕎麦の花分け入る先は祖師の寺平山 隆一
萩やさし故郷の人の玉日講
彼岸花護摩焚く僧を加勢せり

課題句:泥鰌どぢやう掘る、かいつぶり、にお
どぢやう掘つて泥ごともどる主人かな 俊 知 
どぢやう掘る白き手拭ひほほかむり 
安曇野に風吹き下す泥鰌掘り 修 人
泥鰌掘る子供の頃の青つ洟
掘りだせばかなしき声のどぢやうかな 如 雨
甲高き声に交じりて泥鰌掘る
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
星影の湖に浮寝か鳰 修 人
倒木の野川をすいと鳰  
鈍色の波間を潜る鳰 
ひた潜る鳰の波紋やはづれ岸 如 雨 
潜る親惑ひて追ふや鳰のひな
かいつぶり潜りて湖面静かなり俊 知

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






すすき

「櫻草」第103號

2006年9・10月號
当季雑詠
職退きて親しむ水絵梅雨もよし 岩渕 如雨
水すまし何年ぶりの出会ひかな 
木道や花まで遠き大賀蓮 
少年の吾にふと会ふ夏の海 
夏の波ささめ言して去りにけり
旅にゐて辛子のきゝし心太ところてん 小川 修人
涼風や湿原蛇行釧路川 
夏霧にペンションの村見え隠れ 
夕涼や土を浴びゐる烏二羽 
郭公の木霊となりぬ奥社
立ち退きの空き地に神酒所秋祭 合田 俊知
長梅雨に人影絶えし社かな 
琉金の泡が一つ二つ三つ 
阿波踊佳き女踊る神楽坂 
御朱印に紅葉栞るや中尊寺
蒼天に郭公の声澄みわたる武蔵 弁慶
豪雨去り路面清涼夏の朝 
栗の花雀が一羽遊びけり 
不二の峰背負ひて夏の波見たり

課題句:鬼城忌、通草あけび
鬼城忌や昔はここに揚げ雲雀 如 雨
鬼城忌や赤城は大き雲を置き  
鬼城忌や入り日幾条山を射る 
鬼城忌に上毛三山鎮まれり修 人
鬼城忌や老手青畝も聾なりし
鬼城忌や心に沁みる句を得たし 
高崎の町並変はりし鬼城の忌俊 知
俳諧の王道のなし鬼城の忌弁 慶
俳諧の王道けわし鬼城の忌
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
山主も知らず通草の熟れし時 如 雨
通草蔓手繰りて実なき猿の山 
熟れあけび通草細工の籠に盛る 修 人
甘きものなき頃思ひあけび食ふ  
頬張りてあけびの種を飛ばさんか 
目籠隅通草も入るる山の幸 俊 知
故郷の山は通草の甘さかな  
幼き日友と食べにし通草かな弁 慶
それぞれの森の色した通草かな

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






あさがお



「櫻草」第102號

2006年7・8月號
当季雑詠
古祠幕張るのみの祭かな 岩渕 如雨
羊歯に拠り小さき蜥蜴の驚かず 
日当たりを避けて歩くや啄木忌 
田植機の千往復の青田かな 
どくだみを残し十字の白を愛づ 
緩る緩ると初夏の旅する八高線 小川 修人
正客の凛と帯締む杜若 
ハンモックトムソーヤの気分かな 
乱れ打つ太鼓の稽古祭前 
苺摘む幼子吾を振り返る
俳画かく墨の香はこぶ初夏の風 合田 俊知
山桐の花誇らしげ元助碑 
夏草や俳書へいざなふ風知草 
文学の湖へ青鷺ただ一羽
最上川芭蕉が拝む滝流れ武蔵 弁慶
不二の峰背負いて夏の波寄する 
実朝や沖の小島に夏の波 
水牢で死しはまことか人麿忌

課題句:硯洗ひ、梅干
硯洗ふ明夜の晴れを願いつつ 俊 知
我が願ひ恥ずかしくもあり硯洗ふ  
洗ひたる硯に願ふ夢淡し 修 人
洗ひたる硯に残る墨の澱 
硯洗ふ去年の願ひをまた書かむ 如 雨
硯洗ふ小筆の穂先検めつ
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
朴の葉の影深まりて梅干しぬ修 人
庭に生る不揃ひの梅干しにけり  
梅干すやすずめ筵をめぐるのみ如 雨
梅干すや三和土に黒き汁の壷
梅漬けに里の香りを偲びゐる俊 知
梅干の器あらため朝の膳

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






あやめ

「櫻草」第101號

2006年5・6月號
当季雑詠
じゃがいもの花の麓や羊蹄山 小川 修人
夏座敷我が物顔に猫通る
忘れたき過ぎし日々ある安居かな
行き違ふ夫婦の会話夏燕
花人に門大開す芭蕉庵合田 俊知
鴎外の庭の彩り花馬酔木
連隊の記憶は花の中となり
帰り来るところは一つ花の路
芽柳や校正係啄木碑岩渕 如雨
春一番四十年の疾きかな
詠みさして梅訪ふ鳥の声を待つ
三日後は桃花と笑むや紺がすり
不摂生をくやむ日々なり春の風邪武蔵 弁慶
夏めきて軽く登りし化粧坂
この一日すべて捨て去るさくらかな
長谷寺のかいどう紅神々し

課題句:篠の子すずのこ、黴
分け入って篠の子取か山頭火  修 人
篠の子や神仙降りる沼ありぬ
篠の子のゑぐみ味はふ煮しめかな
篠の子を避けて荷をおく登山帽 如 雨
篠の子のとんがり留守の椀にあり
篠の子の育ち気になる隠し山  俊 知
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
思ふやう事は運ばず黴の宿 修 人
未だ開けぬボルドーの壜黴にけり
若き日の愛読の書は黴にけり 俊 知
黴拭きぬ神秘の力採るごとく 如 雨
去りし子や部屋にひとすじ黴歩く
上古(しょうこ)なる壁画の色を盗りし黴

印は佳句とされたもの、作品の選評があったもの等です。






さくら

「櫻草」第100號

2006年3・4月號
当季雑詠
客一つ役者も一つ歳をとり合田 俊知
寒椿一輪手折る女かな
ビル出でて花降りかかる喫煙所
山城屋贔屓袢纏初芝居
雪解川廃坑多き空知かな小川 修人
たんぽぽや工場跡の赤煉瓦
愛用の碁盤に立てる雛かな
顔見せぬ子にメール打つ雛祭

課題句:雉、桜餅
大仏の背負ひし山や雉子のほろろ  俊 知
雉子遊ぶ山裾近き庵かな  
北斎の雉子上目にて睨みたる 修 人
雉子鳴かむ山の中なる住宅地 
 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 
端座する碁盤の横に櫻餅  修 人
店先に知らせ文あり櫻餅 
名物の餅はあそこと桜橋 俊 知
墨堤の句碑をつたひて櫻餅  

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わかたけ


「櫻草」第99号

2006年1・2月號
当季雑詠
寒椿咲いて散りけり比翼塚 合田 俊知
狛犬の守りてゆかしき初日かな
社寺めぐりめぐりめぐりて去年今年
み仏の顔俯きて冬日さす
雪ふるや八丁堀の水重し
・・・・・・・・・
義仲寺の見えず心の時雨かな

課題句:年賀、残雪
年礼やエレベ-ター内華やぎぬ 俊 知
残る雪踏みしめ児らは旅立ちぬ
葬列の裾を濡らすや残り雪






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